七竈 ~ふたたび、春~

菱沼あゆ

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數葉の蔵

市長からの依頼

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 人体模型と校長と、何処かで見たようなイケメンが立っていた。

 何処で見たんだったかな、この顔。

 見るからに育ちの良さそうな整った顔立ちだが、なにかこう……一癖ありそうな眼をしている。

「ふうん。
 こうして生で見ると、ちょっとオニイチャンと似てるね」
とその若い男を見ながら、英嗣が言ってくる。

 オニイチャンとは槻田のことのようだった。

「……似てないわよ」

 ぼそりとそう言ったが、なにを似ていると言われたのかわかる気がした。

 顔ではない。

 何処かこう、官僚っぽい雰囲気が似ている。

「生でって、この人、テレビに出てる人?」

 俳優かなにかだったろうか、と思っていると、
「市長じゃん。
 この間当選した」

 幽霊に自分とこの市長を教えてもらうってどうよ、と英嗣が言ってくる。

「おばちゃんや若い娘が選挙カーを追っかけ歩いてたらしいけど。
 顔だけが評価されたわけでもないよ。

 外務省のキャリアだったんだけど、前市長が体調を崩したので帰ってきた、前市長の娘の婚約者だよ」

 なんとニュースに詳しい幽霊だな、と思いながら聞いていたとき、その若き市長とやらがこちらを振り向いた。

 表情ひとつ変えずに、七月の顔を見ている。

 校長が気づいて声をかけてきた。

「ああ、矢部さん……、」

 妙な間があったのは、うっかり英嗣にまで呼びかけそうになったからだろう。

「無事に届きましたよ、人体模型。
 數葉さんによろしくお伝えください」
と言われる。

 いや、私より校長の方が親しいはずなんですが。

 私に頼まないでください、と思っていると、
「では、お願いします」
と言い、市長は頭を下げ、行ってしまう。

 横を通るとき、香のようないい香りがした。

 思わず振り返ると、市長もこちらを振り返っていた。

 なんだろう。
 なんか気になるな、あの人と、思っていると、校長が、

「格好いいでしょう? 今度の市長」
としょうもないことを言ってくる。

「前の市長も若い頃は、あんな男前だったんですけどね」

 月日の流れというのは恐ろしいものですねえ、と自分は、今でもダンディな校長がしみじみと言う。

「ところで、なにがお願いしますなんですか?」
と問うと、そこで校長は言い淀む。

 少し迷って言った。

「実は、七竃を切ってくれと言われたんですよ」

 一瞬、なにを言われたのかわからなかった。

「七竃を?」
「はい」

「何故です?」

「それがよくわからないんです。
 一応、良くない噂のある木が学園内にあるのは好ましくないというお話でしたが」

 この間のひよりさんの一件で、ますます悪い噂が広まってしまいましたからねえ、と校長は言ってくる。

「全然別件で殺されたのかもしれないのにね」
と言う英嗣に、

「殺さないでよ」
と顔をしかめたあとで、

「ちょっと待ってて。
 私、行ってくる」
と廊下に出ようとすると、英嗣に、

「待っててって無茶言わないでよ。
 君に憑いてるのに」
と言われる。

 嘘つけ。
 離れられるくせに、と思いながら、結局、英嗣を連れていった。



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