2 / 42
數葉の蔵
絶対、なにか憑いてるし
しおりを挟む途中、料亭から取ったらしい仕出し弁当が出て、それをいただいてすぐ、昼過ぎに蔵の掃除は終わった。
最初、着物もなにもトラックで七月のマンションに運ぶという話になり、いいえ、持ってきてくださらなくて結構ですっ、と七月は慌てて首を振った。
私にあの人体模型をどうしろと言うのだ。
学校へ行くまで、一晩抱いて寝るとか嫌だ。
絶対、なにか憑いてるし、と思っていると、數葉は、
「じゃあ、それだけ学校で降ろして。
あとは七月さん持って帰りなさい」
と言う。
「あ、ありがとうございます」
なにやら高そうな着物に合わせて、蔵にあったのではない帯までいただいてしまった。
もしや、英嗣が引っ付いている迷惑料だろうか。
風呂敷に包んでもらい、よいしょ、と結構重みのあるそれらを抱えていると、
「あの男が居ないと不便ね」
と言ってくる。
もしや、槻田先生のことだろうかな、と思った。
「貴方もトラックに乗っていったら?
それか車を出しましょうか」
と言われ、結構です、と断る。
「いつも持ってる鞄よりは軽いですから」
と風呂敷包みを見せて言うと、あら、そう、と數葉は言い、懐からなにやら出してきた。
小洒落たポチ袋だった。
「日当よ」
と渡してくれる。
「えっ。
結構ですっ」
「いいから持って帰りなさい。
それから、人体模型のことは、校長先生には伝えてあるから」
それはよかった。
いきなり、あんなものが校門にぽん、と置いてあったら、軽くパニックだ。
生物室から逃げ出した人体模型が居ると、また学園の噂が増えてしまう。
數葉や牧田たちに頭を下げ、帰ろうとして、振り返る。
數葉がまだこちらを見ていたからだ。
いや、自分をではない。
英嗣をだ。
「あの……」
と七月は呼びかけた。
「またなにか機会があったら、伺ってもいいですか」
數葉は伏し目がちに言う。
「うちの庭にはいつも花があるから。
たまには手折りに来て、学校に活けておあげなさい」
「はい。
ありがとうございます」
と七月は深く頭を下げた。
「なんであんな奴に頭下げんのさ」
親の心子知らずとはこのことだな、と横でぎゃあぎゃあ言っている英嗣の言葉を聞きながら、歩いて家まで帰る。
いい天気だ。
休日のこんな日は、槻田先生とぼんやり散歩とかしていたい。
ちらと横を見る。
……顔は同じなんだが、和まないのは何故だろう。
うるさいからか?
一旦、家に帰ったのだが、なにやらあの人体模型が気になり、学校に行くことにした。
校長が無事受け取ってくれているはずだが。
日曜なのに、英嗣の母親に押し切られたのだろうかな、と思いながら、英嗣と二人、学校に行く。
人体模型はもう外には出ていなかった。
部活の生徒ももう居ない。
七月は、しんとした校舎を覗いてみた。
玄関の鍵は開いている。
七月たちの下駄箱は此処から離れている。
ひんやりとした床に靴下のまま上がると、
「大丈夫?
また、あっちの世界に引っ張り込まれたりしない?」
と英嗣が訊いてきた。
「わかんないけど」
と言ったとき、話し声が聞こえてきた。
校長と、誰か若い男のようだった。
張りのあるいい声だ。
ナナカマド、と聞こえた気がした。
聞き違いかな、と思いながら、ひょい、と職員室を覗く。
0
あなたにおすすめの小説
怪蒐師
糸世朔
ホラー
第8回ホラー•ミステリー大賞で優秀賞を受賞しました。ありがとうございました!
●あらすじ
『階段をのぼるだけで一万円』
大学二年生の間宮は、同じ学部にも関わらず一度も話したことすらない三ツ橋に怪しげなアルバイトを紹介される。
三ツ橋に連れて行かれたテナントビルの事務所で出迎えたのは、イスルギと名乗る男だった。
男は言った。
ーー君の「階段をのぼるという体験」を買いたいんだ。
ーーもちろん、ただの階段じゃない。
イスルギは怪異の体験を売り買いする奇妙な男だった。
《目次》
第一話「十三階段」
第二話「忌み地」
第三話「凶宅」
第四話「呪詛箱」
第五話「肉人さん」
第六話「悪夢」
最終話「触穢」
※他サイトでも公開しています。
怪奇蒐集帳(短編集)
naomikoryo
ホラー
この世には、知ってはいけない話がある。
怪談、都市伝説、語り継がれる呪い——
どれもがただの作り話かもしれない。
だが、それでも時々、**「本物」**が紛れ込むことがある。
本書は、そんな“見つけてしまった”怪異を集めた一冊である。
最後のページを閉じるとき、あなたは“何か”に気づくことになるだろう——。
皆さんは呪われました
禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか?
お勧めの呪いがありますよ。
効果は絶大です。
ぜひ、試してみてください……
その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。
最後に残るのは誰だ……
【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/2/13:『てんじょうのかげ』の章を追加。2026/2/20の朝頃より公開開始予定。
2026/2/12:『れいぞうこ』の章を追加。2026/2/19の朝頃より公開開始予定。
2026/2/11:『わふく』の章を追加。2026/2/18の朝頃より公開開始予定。
2026/2/10:『ふりかえ』の章を追加。2026/2/17の朝頃より公開開始予定。
2026/2/9:『ゆぶね』の章を追加。2026/2/16の朝頃より公開開始予定。
2026/2/8:『ゆき』の章を追加。2026/2/15の朝頃より公開開始予定。
2026/2/7:『かいぎ』の章を追加。2026/2/14の朝頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる