七竈 ~ふたたび、春~

菱沼あゆ

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數葉の蔵

絶対、なにか憑いてるし

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 途中、料亭から取ったらしい仕出し弁当が出て、それをいただいてすぐ、昼過ぎに蔵の掃除は終わった。

 最初、着物もなにもトラックで七月のマンションに運ぶという話になり、いいえ、持ってきてくださらなくて結構ですっ、と七月は慌てて首を振った。

 私にあの人体模型をどうしろと言うのだ。

 学校へ行くまで、一晩抱いて寝るとか嫌だ。

 絶対、なにか憑いてるし、と思っていると、數葉は、

「じゃあ、それだけ学校で降ろして。
 あとは七月さん持って帰りなさい」
と言う。

「あ、ありがとうございます」

 なにやら高そうな着物に合わせて、蔵にあったのではない帯までいただいてしまった。

 もしや、英嗣が引っ付いている迷惑料だろうか。

 風呂敷に包んでもらい、よいしょ、と結構重みのあるそれらを抱えていると、
「あの男が居ないと不便ね」
と言ってくる。

 もしや、槻田先生のことだろうかな、と思った。

「貴方もトラックに乗っていったら?
 それか車を出しましょうか」
と言われ、結構です、と断る。

「いつも持ってる鞄よりは軽いですから」
と風呂敷包みを見せて言うと、あら、そう、と數葉は言い、懐からなにやら出してきた。

 小洒落たポチ袋だった。

「日当よ」
と渡してくれる。

「えっ。
 結構ですっ」

「いいから持って帰りなさい。
 それから、人体模型のことは、校長先生には伝えてあるから」

 それはよかった。
 いきなり、あんなものが校門にぽん、と置いてあったら、軽くパニックだ。

 生物室から逃げ出した人体模型が居ると、また学園の噂が増えてしまう。

 數葉や牧田たちに頭を下げ、帰ろうとして、振り返る。

 數葉がまだこちらを見ていたからだ。

 いや、自分をではない。

 英嗣をだ。

「あの……」
と七月は呼びかけた。

「またなにか機会があったら、伺ってもいいですか」

 數葉は伏し目がちに言う。

「うちの庭にはいつも花があるから。
 たまには手折りに来て、学校に活けておあげなさい」

「はい。
 ありがとうございます」
と七月は深く頭を下げた。




「なんであんな奴に頭下げんのさ」

 親の心子知らずとはこのことだな、と横でぎゃあぎゃあ言っている英嗣の言葉を聞きながら、歩いて家まで帰る。

 いい天気だ。

 休日のこんな日は、槻田先生とぼんやり散歩とかしていたい。

 ちらと横を見る。

 ……顔は同じなんだが、和まないのは何故だろう。

 うるさいからか?

 一旦、家に帰ったのだが、なにやらあの人体模型が気になり、学校に行くことにした。

 校長が無事受け取ってくれているはずだが。

 日曜なのに、英嗣の母親に押し切られたのだろうかな、と思いながら、英嗣と二人、学校に行く。

 人体模型はもう外には出ていなかった。

 部活の生徒ももう居ない。

 七月は、しんとした校舎を覗いてみた。

 玄関の鍵は開いている。

 七月たちの下駄箱は此処から離れている。

 ひんやりとした床に靴下のまま上がると、
「大丈夫?
 また、あっちの世界に引っ張り込まれたりしない?」
と英嗣が訊いてきた。

「わかんないけど」
と言ったとき、話し声が聞こえてきた。

 校長と、誰か若い男のようだった。

 張りのあるいい声だ。

 ナナカマド、と聞こえた気がした。

 聞き違いかな、と思いながら、ひょい、と職員室を覗く。


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