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數葉の蔵
笑えない話
しおりを挟む結局、4:44より随分早く、七月は学校を出ていた。
三橋たちから連絡があったからだ。
『晩飯、お好み焼き食べに行かないか?』
二人でつるんでウロウロしていたようだ。
この受験生も勉強する気ないな、と思う。
『どうせ、晩御飯作るのめんどくせーんだろ」
と三橋が余計なことを言ってくるので、思わず断りそうになったが、確かに、疲れている今日はなにもしたくない。
いや、いつもだが。
三橋も三村もお気に入りの、牛すじ入りのお好み焼きが美味しい店で待ち合わせをする。
貴方がたは立派な晩ご飯があるのではないですかね、と思いながらも、やはり、夕食は大勢の方がいいなと思い、言わなかった。
「あー、いい匂い」
鉄板の上でソースの焦げる匂いを嗅ぎながら七月は言った。
「テレビで見ると食いたくなるよな。
お好み焼きとか、ラーメンとか、すき焼きとか」
と言う三橋に、七月と三村は、テコを握って、うーん、と唸る。
「今、ラーメンって言うの、やめて」
「あれは、見たらとかじゃなくて、聞いただけで食べたくなるよね」
「トイレの霊の人が成仏出来なかったのもわかるわ」
と二人で言っていると、三橋が、だから、ラーメンのせいで成仏出来なかったんじゃねえだろ、という顔をする。
「じゃあ、ハシゴするか」
「いや、そんなに食べられないわよ……」
そんなくだらない話から、今日なにをしていたかという話になった。
いや、それもくだらないと言えば、くだらないのだが。
なんと、二人は図書館で勉強していたのだと言う。
「なんだ、勉強してるんじゃん、受験生」
と言って、
「お前も受験生だろ」
と呆れたように三橋に言われる。
「矢部さんはいいじゃん。
いざとなったら、お嫁に行けば」
「ごめん。
それ、なに時代の話……?」
そうじゃなくて、と三村が言った。
「槻田先生がもらってくれるでしょ」
お好み焼きの長いもやしが喉に引っかかりそうになった。
恐ろしい。
殺人もやしだ、と思いながら、咳き込む。
「なに言ってんだ。
あんなモテそうな男」
と三橋が鼻で笑う。
「しかも、警察に戻ったんだろ?
警察官僚とかって、信用第一だから、早めに結婚するって聞いたぞ。
降るように見合いの話とかあるんじゃねえのか、キャリア様は」
このもやしで、こいつを殺したい、とよく冷えた水の入ったグラスを握り締め、七月は思った。
「ところで、矢部さんはなにしてたの?
学校に居たみたいだけど」
とりあえず、もやしで三橋を殺すのは中断して、英嗣の母親に呼ばれた話から、市長が七竃を切れと言った話までをざっくりとする。
「……子離れできない親だな、殺しておいて」
そんなことを三橋が言い出す。
「英嗣さんがお前に憑いてるのを知ってて、呼んでるんだろ?」
うん、あの。
君には見えてないみたいだけど、今も居るからね、英嗣さん、と思ったが言わなかった。
「それにしても、市長はなんで突然、七竃を切れなんて言い出したんだろうね」
話題を変えるように三村が言う。
「うーん。
人が消えるからとか言ってたけど」
と七月が言うと、
「七竃が消えたら消えなくなるのかよ。
七竃が消えたら、呪いも消えるのか?
っていうか、既に消えてる沢木ひよりはどうなるんだよ。
かえって戻って来れなくなったりしないのか?
ついでに、その市長、なんでわざわざそんなこと言ってくるんだよ」
と三橋が言う。
ごもっともな意見だが、そんな一気に言って、よく息が続くな、と七月は妙な感心をしてしまった。
「三橋は反対なの?」
と三村に訊かれ、
「反対もクソもねえよ。
きっと工事しようとした奴が心臓麻痺で死んで終わりだよ。
可哀想に。
市長が自分で切ればいいのにな」
と言っている。
そうだろうかな。
意外とあっさり切られてしまうかもと、思っていると、英嗣が口を出してきた。
「七竃切ったら、七月ちゃんが消えたりしてね」
「なに笑えないこと言ってんのよ」
と言うと、三橋は、お前、誰と話してんだ、という顔をしたあとで、ああ、と言う。
「英嗣さん、なんて?」
と訊いてくる三村に、
「七竃切ったら、私も消えるんじないかって。
ありそうよね。
まあ、密接に結びついてるものだからね」
と答えると、三橋が嫌そうな顔をした。
「ところで、三村くん、英嗣さん、今、見えないの?」
三村は七月の周辺に視線を巡らし、
「うーん。
今は見えないかな。
波があるからね、僕の場合」
と言うが、見えるか見えないかというのは、英嗣の気分も大きく影響しているような気がした。
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