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數葉の蔵
なんの用ですか?
しおりを挟む「美味しかったねー」
お好み焼き屋の色のおかしいテレビで地元の子供たちのニュースなど微笑ましく見ながら、完食した。
満足して、外に出たとき、三村が言った。
「僕、ちょっと寄るとこあるから」
「あ、ほんと?
じゃあ、また、明日ー」
と七月が手を振り、
「明日、見に行ってみなよ、生物準備室」
と言うと、えー、と嫌そうな顔をする。
真横に残った三橋を見上げ、
「じゃあね、三橋くん」
と言うと、
「……なんでだ」
と言う。
いや、なんでだって、なんでだ、と思っていると、
「同じ方向だろ」
と言って歩き出す。
いや、まあ、そうなんだけど、と思いながらついて行った。
何処の大学を受けるのかとか、そんな話をしている間に、別れ道に来た。
「じゃあね、三橋くん」
とまた同じ台詞を言ったが、三橋は動かない。
どうした? と思っていると、
「送ってってやるよ」
と言う。
「大丈夫だよ。
まだ明るいよ」
と言ったのだが、
「送っていくのも駄目なのか。
なんなんだ、お前はっ」
とキレ始める。
なんなんだは私の台詞だ、と思っていると、斜め上から声がした。
「送ってってもらいなよ、七月ちゃん。
大丈夫、僕が居るから」
そう英嗣が姿を見せないまま言ってくるが。
いや、大丈夫もなにも、特に心配などしていないのだが。
単に、三橋が遠回りになると思っただけだ。
「いいじゃん。
青春の思い出だよ。
送るくらいさせてあげなよ。
家には上げちゃ駄目だよ。
僕はなにもしてあげられないからね」
と言うので、じゃあ、居ても意味ないような、と思ったのだが、
「そう。
ありがとう。
ごめんね」
と言い、三橋に送られた。
三橋は、マンションの下で足を止めると、
「ほら、早く入れ。
見ててやるから」
と言ってくる。
「ありがとう」
と言ったあとで笑うと、いつもの鋭い目つきで、
「……なんだ?」
と訊いてくる。
「いや、なんかそういう言い方すると、ボディガードか騎士みたいだなと思って」
と言って、威嚇された。
最近、昔ほど言動がキツくなくなってきたので、なにも知らない下級生以外にも人気が出てきたと聞いたのだが。
やはり中身はなにも変わってはいなかったようだ。
「なにが騎士だ。
お前がそもそも、姫じゃねえし」
そんな捨て台詞を吐き、じゃあな、と手を振る。
「ありがと。
おやすみ。
また明日」
と七月はエントランスに入っていった。
振り返り見ると、ガラスの向こうに、三橋の姿はもうなかった。
家に帰り、風呂にも入って一息ついたら、携帯が鳴った。
一瞬、どきりとする。
槻田がかけてくるのが、大体このくらいの時間だからだ。
まだあるコタツの上で震えるスマホに手を伸ばす。
だが、そこに出ていた番号は、登録されていないものだった。
なんだろう。
英嗣さんのお母さんからの電話と同じくらい嫌な予感がするぞ。
切っちゃおうかな、と思ったのだが、なにやら、出ろ、と脅している風な鳴り方をしている。
逆らえずに、それを取った。
「はい」
と出ると、
『高岡だ』
と言う。
何処の? と思った。
その沈黙にこちらが理解してないことを知り、
『さっき会ったろう』
と言ってくる。
市長か……。
「なんの用ですか。
失礼。
なんの御用ですか」
そして、何故、この番号を知っているのですか。
貴方の番号は聞いたけど、こっちは教えていませんよ、と思う。
もしや、私の携帯の番号は何処かで安価で売り買いされていたり、何処かの掲示板に貼ってあったりするのだろうかと疑う。
みんな私の許可なく、何処からともなく、番号を手に入れてくるからだ。
まあ、もったいぶる程のものでもないが。
『今、暇か、矢部七月』
そして、何故、この人は、私の名前を知ってたんだ……と思いながら、
「あの、もう寝ようかと思ってたんですが」
と言うと、
『じゃあ、特に用はないんだな。
今すぐ学校に来い。
暗いからタクシーで来てもいいぞ、金は払う」
と言ってくる。
いや、あの、寝る、というのは、用事のうちに入らないんですかね? と思っている間に切られてしまった。
「どうするの? 七月ちゃん」
勝手に切られた携帯を見つめていると、英嗣が訊いてくる。
七月は風呂を諦め、溜息まじりに、また出かける支度を始めた。
「ええーっ。
行くの?
タクシーで行きなよ?
せっかく払ってくれるって言ってるんだからさ」
夜道危ないよ、と英嗣は心配して訴えてくる。
そういえば、夜道は危ないとスタンガンもらったんだったな……。
「僕、なんにも出来ないからね、なにかあっても」
「わかってる。
ありがとう」
と言いながら、急いで荷物を詰めた。
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