七竈 ~ふたたび、春~

菱沼あゆ

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ぬらりひょんの宝

さすが、4:44の世界

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 沢木ひよりだよ、という雷太の言葉を聞きながら、七月は、ちらりと横を窺う。

 黙っている高岡を見、雷太が言った。

「高岡真澄。
 沢木ひよりの義弟だな」

「……今は違いますけどね」
と高岡が言うと、

「一度兄弟の契りを結んだら、親が離婚しても兄弟だろう」
と雷太が言い出す。

 何処の三国志だ……、と思ったが、確かに高岡にとっては、ひよりは今も姉のようだった。

「お前はひよりが七竃のせいで消えたと思い、七竃を切ろうとしたようだが」

「なんでもご存知なんですね」
と高岡が雷太に言う。

 それにしても、あの高岡が雷太には敬語を使っている。

 警戒すべき相手だと思っているからか?

「沢木ひよりは此処にはもう居ない」

「もう?」
と聞き咎め、七月が問うと、

「居たんだがな。
 俺を見て逃げたよ」
と雷太は鼻で笑ってみせた。

「呪いに引きずられて此処に来たんだろうに。
 あの女にとっては、呪いより俺の方が恐ろしいらしいな」

「ひよりは何故、貴方を恐れてるんです?」

 或る程度、その答えを予想しながらだろう。

 硬い表情で、高岡が訊く。

「決まってるじゃないか。
 俺に都合の悪いことを知られている。

 そうあの女が思い込んでいるからだよ」

 そう言い、雷太は笑った。

 うーむ。
 どっちが悪人なのかよくわからないが。

 とりあえず、邪悪な笑みだ。

 そんな七月の視線を感じたように、雷太は言う。

「まあ、俺も今では人を責められたもんじゃないけどな。
 俺も殺人犯だから」

「あ、あのー。
 ぶっ殺すぞの人のことでしたら、本人が気にしないでくれと言っていましたが」

 いや、殺された人間が、私を殺したことは気にしてないでください、と言ってきても、じゃあ、それでは、というわけにはいかないだろう。

 人の心というものは。

 だが、雷太は言った。

「大丈夫だ。
 他にも殺してる」

 ……うん。
 どの辺が大丈夫なのかはよくわからないが。

 とりあえず、今度、ぶっ殺すぞの人に出会ったら、気に病むな、とだけは伝えておこうと思った。

「ところで、七月。
 もう浮気か」

 槻田が出て行ったの、この前だよな、と雷太が高岡を見る。

 いや、この悪魔はまったく関係ないですよー、と思っていると、高岡が、
「俺の愛人にどうだと言ったんですか。
 断られました」
と言う。

 雷太は一拍間をおいてから言ってきた。

「……愛人じゃなきゃいいんじゃないか?」

 真剣に考えないでください、と思ったとき、誰かが校舎からこちらを見下ろしているのが見えた。

 遠いうえに真っ暗なのにな……。

 さすが、4:44の世界。

 まあ、此処では生きている人間がウロウロしている方がびっくりだから。

 この雷太のように。

「行ってみるか? 七月」
と何故か雷太は自分に訊いてくる。

 その二階の窓際の影を見つめ、
「誰が行くよりお前が行った方がいいだろう」
 そう言ってきた。


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