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ぬらりひょんの宝
裏の世界に
しおりを挟む暗い校庭に七竃はどっしりと立っていた。
この木を見上げていると、様々な思いが胸に去来する。
七月が黙って七竃を見上げていると、高岡も同じように黙って見上げていた。
この人はなにを考えてんのかな?
やっぱり、ひよりさんのこと?
と黙っていれば、精悍に見えるその横顔を眺めていると、後ろから声がした。
「おう、七月か」
振り返ると、あの警官が立っていた。
「あ、どうも」
と挨拶して、前に向き直りかけて、また振り返る。
「まま、待ってくださいーっ」
あの夜道は気をつけろの男だ。
襟首をつかむと、男は普通によろける。
「なにをするっ」
と怒鳴られ、手を離し、
「こ……こんばんは」
と挨拶してみた。
なにやってんだという目で離れた位置から高岡は見ている。
「あ、あのー。
此処はもしかして、4:44の世界ですか?」
この男が出現したので、そう問うと、男は周囲を見回し、
「違うだろ」
と言う。
「あんまりあっち行くなよ。
華月も居るし。
引っ張られて戻れなくなったらどうするんだ」
と突然、説教された。
それにしても、どうしよう。
すごーく普通に現れられたので、どうしていいかわからない。
「あのー」
ととりあえず、話しかけてみた。
なんだ? と男はこちらを見る。
「……貴方は、お巡りさんなんですか?」
と訊くと、
「昔な」
と言う。
「おねえちゃん……華月さんが、高校生の頃」
この男に挨拶して、笑いながら駆けて行った女子高生たち。
ぼんやりとしか見えなかったが、華月たちだったかもしれない。
おう、そうだな、と男は懐かしげに言ってきた。
「華月は可愛かったな。
お前も可愛いが、華月の方が可愛かった」
という余計な報告をしてくれる。
ほう、という顔で高岡が聞いている。
「あの、すみません。
お名前は」
と言いかけたとき、後ろの校舎でチャイムが鳴った。
振り返って校舎にはめ込まれた時計を見ながら男は言う。
「よかったな、七月」
「は?」
「行きたかったんだろ? 裏の世界に」
俺はあまりお勧めしないが、という男に、
「いえ、そんなことは……」
と言いながら、男の視線を追って、時計を見る。
4:44だ。
「なんだ。
壊れてるじゃないか」
校長に言って直させろ、と高岡もそれに気づいて言ってきた。
「違いますよ。
これが問題の4:44の職員室のある……」
と言いかけたとき、
「雷太《らいた》!」
という声がした。
青いシャツを着た佐竹が校舎から走ってくるところだった。
「おお。
久しぶりに名前を呼んだな」
と男は佐竹を見て言っている。
「雷太、雷太じゃないか」
と佐竹が肩を叩こうとする。
「なんだ。
その懐かしそうな言い方」
俺、しょっちゅうお前に会ってるからな、と雷太は言った。
お前が毎度忘れてくれてるだけだ、と。
「幼なじみなんだ」
と佐竹は懐かしそうに言った。
……そうだったのか?
と思い、眺めていると、
「……幼なじみなんだ」
と笑顔のまま繰り返す佐竹の表情が曇ってくる。
「幼なじみ……だよな?」
雷太という名前だったらしい男に不安そうに確かめている。
「知るか」
と言い返されていたが。
「勝手にさっさと死にやがって」
と佐竹に向かい、雷太は言う。
いや、望んで、勝手にさっさと死んだわけではないのでは、と七月が苦笑いしていると、雷太はぼそりと小声で言った。
「なにもかも俺に押しつけて……」
責めているというより、少し悔しそうな口調でもあった。
雷太は七月を向いて言う。
「幼なじみなんだ、困ったことに。
教師のくせに、華月を襲って、しかも、妊娠させられなかったこの莫迦者が」
と言い出す。
「え……」
「お前、誤解を呼ぶような言い方をするなよ」
と佐竹が渋面を作る。
自分と担任である槻田の関係を知ったひよりが百花に言ったという言葉を思い出す。
『七月ちゃんって、先生が好きなんだ?
因果なもんね』
彼女は、華月と佐竹の関係を知っていたからこそ、そう言ったのだろう。
それにしても、佐竹と華月の関係は予想通りだが。
その妊娠させられなかったっていうのはなんだ、と思っていた。
「華月は望まず他の男の子を身ごもって、佐竹の前を去った。
それが七月、お前だ」
どきりとしていた。
今まで、テレビの向こうの事件だと思って眺めていた場所に、いきなり放り込まれたような気がして。
「華月はまだ学生だったから、お前は姉夫婦の子供として育てられた。
その後、華月は姿を消し、佐竹は焼死。
俺は好きな女も親友も失った」
「……雷太」
と佐竹が呟く。
「真相は闇の中だが、絶対に事件に関わっている奴が居る」
「……誰ですか?」
沢木ひよりだよ―― と雷太は言った。
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