おとぎ ~花魁候補の少女がやってきて、突然はじまる江戸ライフ~

菱沼あゆ

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祈り

マジパンと知育菓子

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 次の日、  
「ただいま」
と家に帰ると、おとぎが、

「おお、お帰り」
と出てきた。

 手にはマジパンでできた淡いピンクのうさぎをつかんでいる。

 マジパンとは粉末のアーモンドと砂糖などで作ってあるお菓子のかざりだ。

 おとぎは、ちゃんとエプロンもやっていたが、粉で汚したらしく、柄がよく見えなくなっていた。

「さっき、知育菓子とやらで寿司とか作っていたんだが。
 おかあさんがマジパンで作っても面白いわよと言うので、猫とか作っておったのじゃ」
とおとぎは、威張ったように反対側の手に持っていたものを見せてくる。

 ……そういえば、猫か? というような茶色いかたまりだった。

 おそらく、うさぎは穂乃果が作った見本で。
 それを見ながら、おとぎが猫を作ったのだろう。

「おい、御伽太夫。
 こういう修行はしなかったのか」

「……人には得意不得意があるのじゃ。
 最初はな。

 だが、私はいずれ、吉原一の花魁になる女!

 そのうち、今にも動き出しそうな猫を作ってみせるっ」

「誰も食べ物に今にも動き出しそう、とか求めてないと思うが……」

 あと、花魁にそんな技術、求めてない気がするが、と言ったが、おとぎは、

「だが、吉原に仕出しを運んでくる台の物の店は技巧を凝らしておるぞ」
と言う。

 台の物とはその名の通り、脚付きの台の上に載せた高級料理のことらしい。

「亀、鶴、松竹梅なんかの縁起物の飾り付けとともに料理が載せられていて、それはそれは派手なんだが……」

 味も量もいまいちなんだ、とほんとうに残念そうに、おとぎは言う。

「駄目じゃないか」

「でも、みんな、そのいまいちなのの残りを次の日、温め直したりして食べている」

「豪華絢爛なイメージなのに、食に関してはショボいとこだな、吉原って」

 そういや、いつか、おとぎも、お腹いっぱい食べられるだけで幸せとか言ってたな、と渉は思い出す。

 キッチンに行くと、穂乃果が、

「お帰り。
 おとぎちゃんにお手伝いしてもらってたのよ。
 知育菓子楽しそうだったから」
と笑う。

「なにも手伝いになってなさそうだが……」

「でも、静かに黙々とやってたわよ。
 そういえば、あんたも昔、ねんど与えてたら静かだったわね~」
 などと穂乃果がおとぎの前で、小さなときのことを言い出したので、ちょっと恥ずかしかった。

「そういえば、江戸にもこのマジパンというのと似たのがあったぞ」

 しんこ細工というのじゃ、とおとぎは言った。

「ああ、しんこ細工ね。
 あっちは、おもちみたいなものでできてるんだけど。

 できたものは似た感じよね」

 おとぎは四角い木の器に詰められた、試作のカラフルな手毬寿司を見ながら言う。

「それにしても、おかあさんの料理は台の物より美しい。
 しかも、美味しい。

 すごいのう」

 穂乃果は嬉しそうに、ふふ、と笑い、
「そうだ。
 もし、よかったら、日曜のケータリングについて来る?」
と言ったが、

「ああでも、ドラマの撮影現場だったわ」
とちょっと困った顔をする。

「おとぎ、はしゃぎそうだな」

「はしゃがないぞ。
 ドラマとかいうの、昼間、見た。

 面白いな、テレビって。
 のぞきからくりみたいだ」

「のぞきからくり?」

「箱の中の絵をのぞくのじゃ。
 レンズの向こうに風景などが見えて、その絵がどんどん変わっていくんだ。

 そういえば、さっき、テレビで『昭和レトロ』とか『平成レトロ』とか言っておったが、『江戸レトロ』はないのか?」

「……江戸レトロ?」
と穂乃果とふたり訊ききき返す。

「まあ、レトロってつけるまでもなく、レトロだしな」
と渉は呟いた。
 



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