おとぎ ~花魁候補の少女がやってきて、突然はじまる江戸ライフ~

菱沼あゆ

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祈り

おとぎ、ロケ現場に行く

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 日曜日。
 穂乃果は、朝早くから支度していた。

 今日はドラマのロケのケータリングの日だ。

「なんかすごいのう」

 調理場のテーブルに並べられた色とりどりの下ごしらえの品を見ながらおとぎは身を乗り出している。

 自宅のキッチンも仕事用にリフォームしてあるが、今回みたいな大人数の料理が必要なときは、別の調理場を借りていた。

「お疲れ様です~」
とスタッフの女性たちもやってくる。

「はい、おとぎちゃん、できたのから、運んで。
 あ、渉、おとぎちゃんにあんたのキャップ貸してあげて」

「いいけど?」

「おとぎちゃん、深めにキャップ被ってね。
 子ども雇ってるみたいになるから」
と穂乃果は言う。

 まあ、おとぎ、いくつなんだかよくわからないが、ちょっと童顔かな、と思う。

「渉、あんたも会場までついて来てよ。荷物持ちに」
と言うが、実際のところ、おとぎがウロウロしないよう、見張ってろってことかな、と思った。


 
 会場に着くとすぐ、みんな手際良く料理のセッティングをはじめる。

 簡単にとって食べられるように、ひとつひとつ四角い木の容器につめられていた。

 野菜もふんだんに入ってあでやかなその品々を見ながら、おとぎが感心する。

「うーん。
 ほんとうにすごいな。

 台屋にも見習って欲しいぞ」

 台屋というのは、吉原の宴会料理の台の物を作る店のことのようだった。

 なんだかんだでおとぎはよく働いた。
 さすが吉原でよく仕込んであるだけのことはある。

「なんと、この花も食べられるのかっ」
とスタッフの女性と話していたおとぎが声を上げる。

 料理の隙間や、スイーツに飾られた、いろとりどりのエディブルフラワーに驚いているようだった。

「江戸にも食べられる花はあったが、私が知っているのは、菊くらいのもんじゃ。
 黄色いのだけでなく、赤い菊も食べられるのがあるそうだが」

 近くを通りかかった穂乃果が言う。

「赤い菊って、『かきのもと』ね。
 アントシアニンが含まれてて、目にいいのよ」

 『かきのもと』は新潟の呼び方で、別の地方では、『もってのほか』とか、『おもいのほか』とか言ったりするらしい。

「天皇家の御紋である菊を食べるなんて、『もってのほか』だとか。
 食べてみたら、『おもいのほか』、おいしかったとか。

 名前の由来はいろいろ言われているわね」

「さすが、おかあさんは、なんでもご存じじゃなあ。
 これはどこの国の料理なのじゃ」

 パイナップルの器に入ったチャーハンを見て、おとぎが訊いた。

「タイの人気料理だけど、日本人の口に合うようにちょっとアレンジしてあるのよ」
「いろいろな国のものが食べられていいのう」

「おとぎの時代にも、異国の物、日本に入ってきてたろ」

「お菓子は南蛮渡来のものがたくさんあったな。
 だが、他の料理はそんなに入ってきてはいない」

 そのとき、
「あらあ、今日は、穂乃果さんなの?」
と言いながら、赤いタイトなワンピースを着た綺麗な女性がやってきた。

 テレビで見たことのある若い女優さんだった。

 彼女は穂乃果を見て、眉をひそめる。

「私、前の夢乃さんとこのケータリングがよかったわあ。
 私、お肉は食べないし」

 テレビと違って、嫌味なやつだな、と渉は思う。

「そうなんですか?
 すみません。またなにか研究しておきます」
と穂乃果は微笑み、頭を下げたが、その女優さんは、ふい、と行ってしまう。

 ロケの男性スタッフの人が、
「すみません。
 玲花さん、肉食べないなんて初めて聞きましたよ。

 確か、前のドラマの打ち上げで、焼肉食べてましたけどね~」
と穂乃果に言ってくる。

 メガネの女性が、
「気にすることないわよ。
 夢乃さんって、玲花さんの事務所の社長の親戚らしいから、それでじゃない?

 私、穂乃果さんのケータリングの方がバランスが良くて好きだわ」
と言う。

 そういえば、なんとか玲花って名前だったな、あの女優、と渉は思い出す。


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