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祈り
あやかしに祟られるぞ
しおりを挟むそれからすぐ、ロケが終わった俳優さんや監督、スタッフさんなんかがやってきた。
穂乃果の作った料理の綺麗さとおいしさに感心したり、はしゃいだりしている。
渉もちょっと誇らしいような気分になっていたのだが、気がついたら、おとぎが消えていた。
さっきまでセッティングを手伝っていたのに。
もう用事が終わったからだろうか、とおとぎを探して会場から出ると、廊下のソファにあの玲花とかいう女優が座っていた。
その前におとぎが立っている。
「どうした、食べないのか?
食べ物を粗末にするとあやかしに祟られるぞ」
俯いていた玲花はチラ、とおとぎを見上げたあと、おや? という顔をする。
だが、返事をせずに黙っていた。
「あんなこと言った手前、恥ずかしくて取りにいけないのなら、私が取ってきてやるぞ」
……その言い方の方がプライドを引っ掻いている気がするが、と思ったとき、玲花が顔を上げて言った。
「うるさいわね。
あんた、私に喧嘩売って、タダですむと思ってるの?」
「別に喧嘩は売ってない。
せっかくおかあさんが作った料理が残ったら勿体無いと思って言っているのじゃ」
「……なにその変な喋り方。
なにかのキャラ付け?」
「キャラとかは知らんが。
美味いものは人を幸せにするぞ。
美しいものも」
置いてきた過去に思いを馳せるような顔をおとぎはする。
そんな表情をしていると、なんだか自分よりずいぶん年上に見えた。
おとぎはきっと、評判の花魁になるだろう。
おとぎの苦労が報われるところを見たいと思う反面、花魁にはなって欲しくないな、とも思っていた。
「ここで食べたくないのなら、冷やしておいて持って帰れ。
今は冷蔵庫とかいう魔法の道具があるのだろう」
「……なにが魔法の道具よ。
冷蔵庫入れといたって、腐るものは腐るわよ」
玲花は俯いてなにやらブツブツ言っていた。
離れて成り行きを見守っていた渉の側にいつの間にか、若い男性が立っていた。
「あー、すみません。
穂乃果さんの息子さんですよね。
玲花さんは、社長にケータリングにケチつけて来いって言われただけで。
玲花さんもまだ売り出し中で、事務所内の立場弱いんで、すみません」
穂乃果さんによろしくお伝えください、と苦笑いして言ってくる。
「あ、じゃあ、ちょっととってきますよ、料理。
人目につかないところでお召し上がりください」
と言うと、すみません、と彼は渉を拝むような仕草をする。
すぐに戻ろうとしたが、中に入ってすぐのところに、穂乃果が立っていた、
今の話を聞いていたようだ。
「ケチつけて来いとか、そんなことを人に頼むだなんて」
と事務所の社長の方に怒っている。
すると、穂乃果の側にいた、さっきの男性スタッフが微笑んで言う。
「心配ありませんよ。
主演の女優さんは、穂乃果さんのケータリングがいいと言っていたので」
彼女がなにを言っても変わらないと言っているようだった。
主演の女優さんの一言が、鶴の一声か。
そういうとこシビアだな、とちょっと玲花に同情してしまった。
「まあ、そりゃそうじゃ。
吉原でも、一番格上の姉さんが言うことにみんな従う」
穂乃果が運転する帰りの車で、おとぎはそんなことを言っていた。
「吉原も芸能界も大変だな」
「そういえば、渉はずいぶん勉強ができると菜々子とメガネが言っておったが、渉は勉強では一番なのか?」
「……一番なわけないだろ。
うちの塾系列のこの辺のエリアだけでも、一番じゃない」
目標は志望している大学の合格なのだから。
別に、一番でなくともいいのだが。
「でも、この間は一番だったんじゃなかった?」
と言う穂乃果に、
「いつも上にあるスナカワとかいう奴の名前がなかった。
休んだのかもしれない」
と渉は言った。
「冷静じゃな、渉は」
とおとぎは笑う。
「たまには調子に乗ってもいいと思うぞ」
「いや。
油断せず、堅実が一番だ」
「ね? 面白くない子でしょ」
と言いながらも、穂乃果も笑っていた。
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