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私の後宮に入れてやろう
焼き菓子が届きました
しおりを挟む花咲き乱れる庭園の西洋式東屋、ガゼボでアローナはジンたちとお茶を飲んでいた。
「そうですか。
娼館にレオ様は情報を得に行ってらしたんですね」
とアローナは呟く。
脚付きの銀の器に盛られているのは、エンが焼いた焼き菓子だ。
例の鷹が届けてくれたのだ。
兄に誘拐されたが、元気にやっているようだ、と懐かしい味のする焼き菓子を頬張りながら、アローナは思う。
口に入れると、ほろりと解けるその焼き菓子は、透明な玻璃の器に入った花入りのお茶とよく合う味だった。
もうひとつ、とその焼き菓子を手にとると、アローナが座る白い石のベンチに止まっていた鷹が、アローナの肩をつついてきた。
アローナは掌に焼き菓子をひとつ置いて、鷹にやる。
「父は、なんのために情報を集めているのだろうか。
自分が返り咲くためか。
それとも、国のためなのか」
と独り言のように、ジンが呟く。
アローナはあの美しい娼館の中に並ぶ、締め切られたそれぞれの部屋を思い出しながら言った。
「身を隠すのにいいから、あの娼館の中、密偵なんかもたくさん来てそうですよね。
でもまあ、かえって都合いいですかね」
とアローナが言うと、
「都合がいい?」
とジンたちが訊き返してくる。
「エメリア様たちを抱き込んで、さもジン様が素晴らしい王であるかのように、あそこで、みなに吹聴してもらうのです」
「……ジン様は、ほんとうに素晴らしい王ですからね」
と言うフェルナンに、わかってますよー、と適当に頷いたあとで、アローナは言った。
「そして、娼館に潜り込んでいるスパイを通じ、新しい王が如何に知略に富み、民の心を掌握しているかを諸国に知らしめるのですっ」
「お前が一番、謀略にまみれている気がしてきたぞ……」
と半眼の目でアローナを見ながら、ジンが言う。
「情報戦を制すれば、戦も回避できるかもしれません。
平和のためです」
そうアローナが言い切ったとき、
「健康のためなら死んでもいい人みたいに。
平和のためなら、なにしてもいい的な匂いのする人ですよね、アローナ様」
と言う声がした。
振り向くと、シャナが立っていた。
「どうした?
もう父の後宮を追い出されたのか?」
と言うジンに、
「いえいえ。
レオ様からジン様にお届け物です」
とシャナは派手に装飾された黒く細長い箱を差し出してくる。
それを受け取りながら、呆れたようにジンは言った。
「お前、ほんとうに優秀な刺客なのか。
バレバレじゃないか」
「いやいやいや。
マヌケな刺客と見せかけて、敵を油断させるんですよ~」
と笑って言うシャナに、
「油断させて、なにするんだ?」
と溜息まじりに言いながら、ジンはその箱を開けていた。
中には巻物状の書簡が入っているようだった。
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