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限りなく怪しい客
今日も彼は来たようだ……
しおりを挟むあ、今日も来た……。
琳は、あれから、小柴がいつ来てもいいように、カメラを常にスタンバイして待っているのだが。
霧雨の降るその日、ドアを開けて現れたのは、あの、毒草を欲しがる謎の青年の方だった。
店内は空いていたので、
「いらっしゃいませ。
何処でも大丈夫ですよ~」
と言うと、青年は案の定、窓際に座った。
ぼんやり、庭を見ている。
というか、主に毒草を見ている。
今、店に入る前も、庭先で足を止め、そちらの方を見ていた。
……非常にわかりやすい人だ、と思いながら、
「いらっしゃいませ」
と琳が水を持っていくと、彼はメニューも見ずに言ってくる。
「ああ、珈琲を。
いや、今日はアイスコーヒーにしてみようかな」
別にどちらでもよさそうな雰囲気だった。
はい、と言って、去ろうとした琳に、
「あれから園芸店に行ってみたんですよ」
と男は言った。
「あ、いいのありました?」
と微笑んで振り向くと、男は、
「いえ、買えませんでした」
と呟く。
買えませんでした……?
ありませんでしたじゃなくて?
と微笑みを浮かべたまま、琳が立っていると、
「店で買うのって、怖くないですか?
なんだか足がつきそうで。
店員さんに顔覚えられたら嫌だし。
でも、インターネットで買ったら、完全に証拠残りますしね」
と言ってくる。
そ、そうですか……と思っていると、ああ、と男は笑い、
「綺麗だけど、毒草みたいなので、なんか、やだなあってだけですよ」
と言ってきた。
そうですか。
そうですか……と心の中で自分を納得させるように呟きながら、笑顔を押し上げ、琳は言う。
「大丈夫ですよ。
みなさん、あまり気にせず買われてますしね」
男は雨にけぶる窓の外に視線を流し、
「……そうなんでしょうけどね」
と言った。
ひーっ。
これ以上、怪しい行動とらないでくださいっ。
此処にはかなりの頻度で警察の人も来てますしっ、
とミステリー好きだが、客から犯人を出したくない琳は心の中で叫ぶ。
いっそ、警察官立寄所のステッカーを貼っておこうか。
そしたら、犯人や、これから犯人になろっかなーと思っているお客さんは来ないかもしれない。
「お庭、広いんですか?」
琳は素敵な庭に素敵な花を植えたいだけの青年だと思い込もうとして、そう訊いた。
すると、彼は琳を見上げて言う。
「うちに庭、ありません」
……ないんですか。
そうですか、そうですか。
「あ、じゃあ、ベランダに置くとか?」
「ベランダ?」
と小首を傾げた男は、
「ああ、ベランダに置いておいた方が日持ちしそうですね」
と言う。
……なんのために日持ちさせるつもりなんですか?
長く育てるおつもりはないようですが。
もうこの時点で、警察に通報した方が、と思われる雰囲気だったが、琳は耐えた。
まあ、宝生さんたちもこの人のことは知ってるしな、と思いながら。
しかし、これ以上、なにを言ってもヤバイ話になりそうだ、とその場を去ろうとした琳は顔を上げ、庭を見た。
雨に霞む庭園。
雨粒に打たれて揺れる花々は確かに綺麗だ。
毒草だなんて、人間がおかしな用途に使うから、そう呼ばれるだけで、花にとっては関係ないことだよね……。
……いかん。
ぼうっとしてしまった、と思い、琳が行こうとしたとき、男が訊いてきた。
「この店、昔、おじいさんがやってましたよね?」
「ええ。
私の祖父です。
今は田舎に隠居してますが」
と言うと、
「そうですか。
それで、貴女が――。
喫茶店とかやってみたかったんですか?」
と訊かれる。
「いえ、死体を……」
そこで男と目が合った。
にこっ、と誤摩化すように笑うと、彼も、にこ、と笑ってくれる。
「すみません。
不躾なことを訊いてしまって」
すみません。
不躾なことを答えてしまって……と琳は思っていた。
行こうとする琳の背に向かい、男が言う。
「僕、そこの商店街の先の、海岸沿いの白いアパートに引っ越してきたんですよ。
安達刹那と言います。
よろしくお願いします」
そう挨拶し、なにか含みのあるような顔で、刹那は微笑んだ。
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