ここは猫町3番地の2 ~限りなく怪しい客~

菱沼あゆ

文字の大きさ
5 / 27
限りなく怪しい客

今日も彼は来たようだ……

しおりを挟む

 あ、今日も来た……。

 琳は、あれから、小柴がいつ来てもいいように、カメラを常にスタンバイして待っているのだが。

 霧雨の降るその日、ドアを開けて現れたのは、あの、毒草を欲しがる謎の青年の方だった。

 店内は空いていたので、
「いらっしゃいませ。
 何処でも大丈夫ですよ~」
と言うと、青年は案の定、窓際に座った。

 ぼんやり、庭を見ている。

 というか、主に毒草を見ている。

 今、店に入る前も、庭先で足を止め、そちらの方を見ていた。

 ……非常にわかりやすい人だ、と思いながら、

「いらっしゃいませ」
と琳が水を持っていくと、彼はメニューも見ずに言ってくる。

「ああ、珈琲を。
 いや、今日はアイスコーヒーにしてみようかな」

 別にどちらでもよさそうな雰囲気だった。

 はい、と言って、去ろうとした琳に、
「あれから園芸店に行ってみたんですよ」
と男は言った。

「あ、いいのありました?」
と微笑んで振り向くと、男は、

「いえ、買えませんでした」
と呟く。

 買えませんでした……?

 ありませんでしたじゃなくて?
と微笑みを浮かべたまま、琳が立っていると、

「店で買うのって、怖くないですか?
 なんだか足がつきそうで。

 店員さんに顔覚えられたら嫌だし。

 でも、インターネットで買ったら、完全に証拠残りますしね」
と言ってくる。

 そ、そうですか……と思っていると、ああ、と男は笑い、
「綺麗だけど、毒草みたいなので、なんか、やだなあってだけですよ」
と言ってきた。

 そうですか。
 そうですか……と心の中で自分を納得させるように呟きながら、笑顔を押し上げ、琳は言う。

「大丈夫ですよ。
 みなさん、あまり気にせず買われてますしね」

 男は雨にけぶる窓の外に視線を流し、
「……そうなんでしょうけどね」
と言った。

 ひーっ。
 これ以上、怪しい行動とらないでくださいっ。

 此処にはかなりの頻度で警察の人も来てますしっ、
とミステリー好きだが、客から犯人を出したくない琳は心の中で叫ぶ。

 いっそ、警察官立寄所のステッカーを貼っておこうか。

 そしたら、犯人や、これから犯人になろっかなーと思っているお客さんは来ないかもしれない。

「お庭、広いんですか?」

 琳は素敵な庭に素敵な花を植えたいだけの青年だと思い込もうとして、そう訊いた。

 すると、彼は琳を見上げて言う。

「うちに庭、ありません」

 ……ないんですか。

 そうですか、そうですか。

「あ、じゃあ、ベランダに置くとか?」

「ベランダ?」
と小首を傾げた男は、

「ああ、ベランダに置いておいた方が日持ちしそうですね」
と言う。

 ……なんのために日持ちさせるつもりなんですか?

 長く育てるおつもりはないようですが。

 もうこの時点で、警察に通報した方が、と思われる雰囲気だったが、琳は耐えた。

 まあ、宝生さんたちもこの人のことは知ってるしな、と思いながら。

 しかし、これ以上、なにを言ってもヤバイ話になりそうだ、とその場を去ろうとした琳は顔を上げ、庭を見た。

 雨に霞む庭園。

 雨粒に打たれて揺れる花々は確かに綺麗だ。

 毒草だなんて、人間がおかしな用途に使うから、そう呼ばれるだけで、花にとっては関係ないことだよね……。

 ……いかん。
 ぼうっとしてしまった、と思い、琳が行こうとしたとき、男が訊いてきた。

「この店、昔、おじいさんがやってましたよね?」

「ええ。
 私の祖父です。

 今は田舎に隠居してますが」
と言うと、

「そうですか。
 それで、貴女が――。

 喫茶店とかやってみたかったんですか?」
と訊かれる。

「いえ、死体を……」

 そこで男と目が合った。

 にこっ、と誤摩化すように笑うと、彼も、にこ、と笑ってくれる。

「すみません。
 不躾ぶしつけなことを訊いてしまって」

 すみません。
 不躾なことを答えてしまって……と琳は思っていた。

 行こうとする琳の背に向かい、男が言う。

「僕、そこの商店街の先の、海岸沿いの白いアパートに引っ越してきたんですよ。
 安達刹那あだち せつなと言います。

 よろしくお願いします」

 そう挨拶し、なにか含みのあるような顔で、刹那は微笑んだ。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ここは猫町3番地の5 ~不穏な習い事~

菱沼あゆ
ミステリー
「雨宮……。  俺は静かに本を読みたいんだっ。  此処は職場かっ?  なんで、来るたび、お前の推理を聞かされるっ?」 監察医と黙ってれば美人な店主の謎解きカフェ。 5話目です。

ここは猫町3番地の4 ~可哀想な犯人~

菱沼あゆ
ミステリー
「雨宮……。  俺は静かに本を読みたいんだっ。  此処は職場かっ?  なんで、来るたび、お前の推理を聞かされるっ?」 監察医と黙ってれば美人な店主の謎解きカフェ。 4話目です。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

ここは猫町3番地の1 ~雑木林の骨~

菱沼あゆ
ミステリー
「雨宮……。  俺は静かに本を読みたいんだっ。  此処は職場かっ?  なんで、来るたび、お前の推理を聞かされるっ?」  監察医と黙ってれば美人な店主の謎解きカフェ。

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

処理中です...