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限りなく怪しい客
大事なのは、そいつが犯人かどうかではない
しおりを挟む「名前がわかったのか」
夜、仕事帰りに、珍しく一緒にやってきた将生と佐久間が並んでカウンターに座っていた。
「はい。
名前も住所もわかりましたよ」
と琳が言うと、佐久間が小声で将生に言うのが聞こえてきた。
「……ナンパですかね?」
「……違うだろう」
と将生が答えている。
「君の育てている毒草が欲しいとかいうナンパ、どうなんだ?」
と言ったあとで、将生はこちらを振り向き、
「その男、お前のじいさんが此処をやってたときのことも知ってるんだよな」
と訊いてくる。
「そうみたいです」
と琳が答えると、将生は俯き、何事か考えていた。
なんで、今日はこいつと一緒。
うっかり、琳の店に佐久間と同時に来てしまった将生は、仕方なく並んで座っていた。
別に佐久間を出し抜きたかったとかいうわけではない。
いや、本当に……。
二人で琳の話を聞いていると、例の怪しい男が琳に名前と住所を告げてきたという。
「……ナンパですかね?」
と言う佐久間に、
「……違うだろう」
と将生は言ったが。
ちょっと気にはなっていた。
そう。
今、大事なことは、そいつが犯罪を犯しそうかどうかということではない。
そいつが、雨宮の好みかどうかということだ。
いや、俺が雨宮を好きとか、そういうわけではないんだが……。
俺は、居ると、すごく落ち着くのに、必ず、なにか落ち着かない事態が起こるこの店を気に入っている。
雨宮がなんだかわからない男と一緒になって、その男が転勤にでもなって。
さよーならー、といきなり居なくなって、この店がなくなったりしたら、困るから。
そう。
困るからっ。
だから、気になるだけなのだ!
そう将生は自分に言い聞かす。
あの安達刹那という男。
確か、なかなかのイケメンだったが、こいつはイケメン好きなのだろうか?
と窺う将生の前で、琳は笑って佐久間と話している。
……別にイケメンでなければ、口もきかないというわけでもないようだ。
などと失礼にも考えながら、将生は二人を見ていた。
将生も佐久間をいい奴だとは思ってはいるのだが。
琳の相手と考えると、どうしても点が辛くなる。
「ああ、でも、そうか……」
将生は、ぼそりと呟いた。
その男、なにか犯罪を犯す気なら、さっさと犯して、ムショに入ってくれたらいいのか。
「佐久間、その安達刹那とやらを捕まえろ」
「いや、なんの罪ですか」
と苦笑いして、佐久間は言ってくるが。
いや、もちろん、雨宮に話しかけた罪だ、と思っていた。
「……おじいちゃんも安達さんのこと、覚えてるかな」
と琳が呟く。
「安達さんの写真、撮らせてもらいましょうか」
と小柴が来たときのためにスタンバイしていたらしい例のカメラを手に琳が言ってくる。
だから、誤解を呼ぶから、男に写真撮らせてくださいとかやめろ……。
窓の外を見ながら、
「ところで、まだあるのか、あの二宮金次郎」
と言うと、
「傘でも持ってった方がいいですかね?」
と濡れそぼった像を見ながら琳が言う。
「でも、鳥のフンがついてたんで、ちょうど綺麗になるかな、と思うんですが……」
と言った琳に、
「お前、車もそんな感じなんだろう」
と言うと、笑っていた。
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