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限りなく怪しい客
古いカメラも役に立つ
しおりを挟む翌日の昼。
「いらっしゃいませ」
と言いかけ、琳は固まる。
う、小柴さんが来ましたよ……。
カメラはカウンター下にあるのだが、なんだかわからないが、将生が、俺が撮るから、お前は撮るなと言っていた。
だからって、宝生さん、常にこの店に居るわけじゃないじゃないですかーっ、と今は居ない将生に心の中で文句を言いながら、琳は小柴に運ぶ水を用意していた。
常連の喜三郎さんとかが来てくださったら、小柴さんを撮ってくださいと頼むのにーっ、と将生が居たら、それもなんか違うだろうと言われそうなことを思う。
小柴はあの窓際の席に座った。
そうだ、と琳は水とメニューとカメラを手に小柴の許へと行った。
「いらっしゃいませ」
と水を出しながら言うと、小柴は早速カメラに目を止め、
「お、年代物のカメラだね。
次郎吉さんのかな?」
と言って笑う。
……やっぱり、おじいちゃんのこと知ってるな。
私の気にしすぎだったのかなー。
いやいや。
何処かでこの店のことを調べてきた何処かの国のスパイなのかもしれない。
いや、小柴が何処かの国のスパイだったとして。
なんのために、この店のことを調べて、昔からの常連のフリをしているのやら。
その理由がさっぱり思いつかないのだが。
そんな相変わらずのミステリー的妄想を爆発させながら、琳はカメラを手に言った。
「ちょっとそこの二宮金次郎さん、撮ってもいいですか?」
小柴は窓の外を見て、
「おっ、ほんとだ。
金次郎さんが居る。
懐かしいなあ」
と旧友を見て語るように言ってきた。
やはり、みんな、結構、和むようだな、金次郎さん。
このまま置いといてもらおうかな、と思いながら、琳は、小柴込みで、金次郎を撮ろうとする。
こういうとき、デジカメでないのは便利だな、と琳は思った。
どんなのが撮れた? 見せて、とか言われないから、なにをどのように撮っていてもバレないからだ。
「……ねえ、なんでそんなに下がるの?」
小柴までフレーム内におさめるため、どんどん下がっていって、中央にある観葉植物に激突した琳に、小柴がそう訊いてきた。
「……いや、庭全体を入れようかと」
と琳は苦笑いして誤摩化した。
誤魔化し切れていたかは知らないが――。
小柴が帰ったあと、琳はカメラを眺めて思う。
うーん。
小柴さんに、なにを撮ったかバレれないのはいいんだけど。
……私にもちゃんと撮れたかどうか、わからないのがなあ。
「あの」
と頭の上でいきなり、声がした。
顔を上げると、刹那だった。
「あ、ああ、いらっしゃいませ」
そう慌てて言うと、
「そこ、座ってもいいですか?」
と刹那は例の窓際の席を指差して言う。
「あ、どうぞー。
すぐお水お持ちしますー」
と言って、水を用意しながら、いろいろ考えた。
ふたたび、水、メニュー、カメラを手にした琳は、刹那の許に行くと、
「安達さん」
と呼びかける。
庭を見ていた刹那が振り向いた。
「写真撮らせてください」
「は?」
「いや、もう理由考えたり、小細工するのがめんどくさくなっちゃって」
写真撮らせてください、とカメラを手にもう一度、琳が言うと、
「……いいですよ」
と言って、刹那は笑った。
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