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ひとつ、私の願いが叶いました
相変わらず、目が死んでいる……
しおりを挟む「圭太」
まだそのままになっている自分の部屋に荷物を取りに寄ろうとした逸人は、広い廊下の真ん中に立つ圭太を見つけた。
我が兄ながら、いつも颯爽とした感じだ。
服装とか、ルックスとかの、見た目だけは。
目は死んでるな、相変わらず……と思っていると、
「芽以も来たのか」
と圭太は訊いてきた。
「当たり前だろ」
と言うと、
「まさか、芽以がお前の嫁として、此処に来る日が来るとはな」
と圭太は言ってくる。
いや……お前が結婚しろって言ったんだ。
だが、家と芽以との間で板挟みになり、正気を失っていた圭太が、最近、ようやく正気を取り戻しつつあるのに気づいていた。
今更、芽以を返せと言っても返さんぞ、と思いながら、腕組みして兄を見据える。
「芽以は?」
と訊いてくるので、日向子と先に行ったようだと教えると、圭太は渋い顔をし、
「あの二人、意外に仲がいいようだな」
と言ってきた。
そうなのだ。
日向子は年がら年中、芽以に食ってかかってはいるが。
芽以はそれを軽く受け流しているし、日向子もなんとなく楽しそうだ。
だからこそ、気分転換に頻繁に店を訪れているのだろう。
圭太が来ていないかチェックするためだけではなくて。
「……芽以と上手くいっているようだな」
窺うようにこちらを見ながら言う圭太に、いや、いってはいない、と思っていた。
「なあ、どうしたら、芽以と上手くいくと思う?」
「俺に訊くな……」
まあ、そうだな。
俺も錯乱していたか、と思いながらも、
「でも、お前と芽以は、はたから見ていたら付き合ってるように見えていたからな」
と言うと、圭太は、
「あのまま居たら、幸せだったかな」
ぼそりとそんなことを呟いてきた。
「結婚できないとわかっていても、周りがそういう目で見てくれてるだけで、結構幸せだったかもな。
芽以との幸せが自分が望めば訪れる気がして」
でも、俺はきっとわかってたんだ、と圭太は言う。
「芽以が俺を愛してはいないこと。
きっと、なんとなく悟ってた。
だから、迷いながらも、日向子の話を受けたんだ」
芽以の心が自分にあったら、こんな未来を選んではいない――。
圭太はそう言った。
「ま、ひとつ教えてやると。
芽以は結構駄目な奴に弱いぞ。
支えてやらなきゃとか思うみたいで。
俺のような駄目人間とか」
と笑う圭太に、逸人は大真面目に頷き、
「そうか。
お前のような駄目人間になればいいんだな」
と口の中で復唱する。
「いや、そこは否定しろよっ」
とただ自虐的に言ってみただけだったらしい圭太が文句を言ってきた。
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