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社長、意外な過去ですね
とりあえず、十個捨ててみろ
しおりを挟む准に、
「とりあえず、家の中のもの、十個捨ててみろ。
今すぐにだ」
と言われた葉名は、
「えっ?
今すぐですか?」
と訊き返した。
「こういうのは、明日からと言わず、少しのことからでも、すぐに行動を移すことが大事だ。
日々、続けていれば、そういう習慣ができてくるからな。
習慣づけば、逆にやらないと気持ち悪いくらいの感じになるだろ」
腕を組み、命じてくる准に、はい、コーチ、と心の中で思いながら、葉名はゴミを捨ててみた。
テーブルの上のティッシュ。
賞味期限が切れているのにまだ取っていた、すでに開いているお菓子の袋。
そして、それを止めていたゴム。
チョコの包み紙。
洗面所のティッシュ。
朝忙しいのに、ビタミンをとらねばと、むいて食べたキッチンのネーブルの皮。
水を切っていた生ゴミ。
キッチンを拭いたお掃除用のウエス。
テーブルを拭いたお掃除用のウエス。
もう結構汚れてしまっていたフローリングワイパーのシート。
葉名を手を止め、周囲を見回した。
「あの~、十個捨てたのに、なにも片付いてないんですけど」
「いや……、そういう十個じゃないだろ」
それは最初から捨てる予定のただのゴミだ、と准に言われる。
「やはり、手伝おう」
と言って、准は辺りにあった雑誌を棚に戻し始めた。
ああっ、おやめくださいっ、と葉名は思う。
部屋に来た、まだそう親しくもない男の人に部屋を片付けてもらうとか、私、女として、終わってる!?
と思ったからだ。
「しゃ、社長っ」
「准だ」
と准は片付けをやめずに言ってくる。
「私がっ、私が片付けますからっ。
ちょっと二、三分、お茶でも飲んでてくださいっ」
と服をハンガーにかけたりしながら、葉名は何度も振り返りながらそう言ったが。
「俺の前で格好つけなくてもいい。
そんなんじゃ、長く続かないぞ」
要領よく片付けながら、准はそう言ってくる。
いや、そんな長く通ってくるつもりなんですか……?
と心底、疑問に思い、葉名は訊いてみた。
「あのー、社内で訊いてみたら、他にも縁起の良い植物を上手く育てている人は居ると思うんですが」
と言ってみたのだが、
「居ても関係ない。
俺は、呑気にペペロミアに水をやっているお前を見たとき、なんだかわからないが、どきりとしたんだ。
俺は直感を信じる」
と言い出す。
『呑気に』は、いらなくないですか?
と思いながらも、
……まあ、直感の人ですからね、と思う。
それからしばらくは、二人で黙々と家を片付けた。
だが、うつむいて、郵便物の仕分けをしていると、誰かが髪を引っ張ってくる。
おや? と振り向くと、何故か准が、後ろで髪を編んでくれている……。
編んでくれている、三つ編みにっ!
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