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ガジュマルの男

何故、こんなに散らかったのか、検証してみよう

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 そんな感じに楽しくお散歩して帰ってきた葉名だったが、おのれのマンションの玄関ドアを開けた瞬間、立ちすくんだ。

 どうやら、泥棒が入ったようだ、と思ったからだ。

 玄関から、開けっ放しのリビングが見えるのだが。

 リビングの中は、此処から見える範囲だけでも、泥棒が入ったとしか思えない惨状だった。

 何故、家というものは、一日でこんなに散らかるのだろうな、とノブをつかんだまま、葉名がぼんやり立っていると、

「ジャングルか」
と耳許で声がした。

 わっ、と振り返ると、廊下にじゅんが立っていた。

「昨日、片付けたのにな……。
 何故、一日でこうなる」
と一緒に片付けた准が物悲しげに言ってくる。

「い、今から片付けますっ」
と葉名は慌てて中に入ろうとしたが、その肩を、

「待て」
と准はつかんできた。

「待て、片付けるな」
と言う彼を、ええっ? と振り向く。

「ちょっと思い出しながら、検証してみろ。
 何故、此処まで散らかってしまったのか」

 ええっ?
 恥ずかしいから、検証したくないんですけどっ、と葉名は思っていたが、准は、

「散らかるにいたったお前の行動をどうにかすれば、今後、部屋は散らからなくなるんじゃないのか?」
と冷静に言ってくる。

 さすが、社長。
 失敗したプロジェクトの見直しをするかのようだ……。

 葉名より先にリビングに入った准は、部屋の中を見回すと、うん、と頷き、

「桐島」
と上官が二等兵を呼びつけるように呼んできた。

「まず、あのソファ周辺の服はなんだ?
 昨日も散乱していたが」
と准は訊いてくる。

「あ、あれは、朝、なにを着ていくか迷って……」

「前日に用意しておけばいいじゃないか」

「入社して、しばらくはそうしてたんですけど。
 この季節、いきなり暑かったり、寒かったりするものですから」

「じゃあ、気温に合わせて二枚出しておけばいいだろ。
 着なかった方は、とりあえず、ハンガーにかけてそこらに引っ掛けておけ。

 ソファや床にぶちまけるより、マシだろう。

 次」
と准は床を見た。

「この散乱したゴミはなんだ……」
と足許を見て言う。

 ああっ、と慌てて葉名はしゃがみ、ゴミと猫耳のついた丸っこい形の黒いゴミ箱をつかんだ。

「こっ、これは、時間がなかったので、髪をとかしながら、急いで出ようとしたら、ゴミ箱につまずいて、ぶちまけて、そのまま。

 この猫のゴミ箱、可愛いけど不安定なので、しょっちゅう転がるんです」
と説明している間に、行動の早い准はしゃがんで一緒に拾ってくれようとする。

「あっ、社長っ。
 自分でやりますっ」
と慌てて止めたのだが、

「准でいい」
と言いながら、准はゴミをつかんだ。

 そんな申し訳ないっ、と葉名は慌てて、それを取り返しながら、

「じゃ、じゃあ、私も葉名でいいです」
と言うと、准は顔を上げて笑った。

 ……そ、そういう顔はちょっと可愛いではないですか。

 悪の部分が消えてますよ、と思いながら、少し赤くなる。

 だが、准は、すぐに立ち上がり、部屋を見回し、頷き始めた。

 だから、散乱した部屋をじっと見ないでくださいってばーっ、と葉名は焦る。

 今日からは、どんなに眠くても片付けて寝て、朝はどんなに遅刻しそうでも、とりあえず、ささっと片付けようと誓った。

 社長、もうなにも検証しなくても、貴方のその冷静な視線で部屋の中を見られる辱はずかしめを受けただけで、もう二度と散らかしませんよ、と葉名は思っていた。

 だが、容赦ない准の分析は続く。

「他にも雑誌や新聞がテーブルに重ねてあるな。
 食べ残しや食器類は出ていないから不潔な感じはしないが、雑然としすぎだろ」

 ひい……。

「そもそも物が多過ぎるから、さっと片付けられる場所がないんだろ」
と悪ではなかった王子は鋭いところを突いてくる。

 いや、悪でないのなら、ただのイケメン御曹司なのだが……。

「ほら、よく言うじゃないか。
 一日十個ずつでも捨ててみろとか。

 少しずつでも、日々積み重ねていくことが大事だ。

 捨てるときのめんどくささを考えたら、買うときも考えるようになるだろ。

 葉名」
と呼ばれて、どきりとする間もなく、准は、

「とりあえず、家の中のもの、十個捨ててみろ。
 今すぐにだ」
と言ってきた。

「えっ?
 今すぐですか?」
と葉名は訊き返す。



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