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社長、意外な過去ですね

これもまた運命に違いない

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「そういえば、貴方のあだ名は『社長』でしたよね」

 可愛い顔なのに、偉そうだったので。

「まさか、今もただのあだ名ってことはないですよね」
とつい言って、

「……おい」
と言われた。

「でも、そういえば、社長のおうちは、お父さんが地方回りの役者さんだから、長く此処には居ないんだと聞いた気がするんですが」

 父親が地方の劇場を回る大衆演劇の劇団の人なので、『社長』はひとところに長くは居ないんだと聞いた気がする。

 だから、そんなに長く遊んでいたわけではなかったのだが、年上とは思えないほど可愛らしい顔をしていたので、覚えていた。

 ……それが、まさか、こんな悪王子になっているとは思わないしな。

 そういえば、顔立ちはそう変わっていないのだが、常になにか一含みありそうな顔をしているので、印象が全然違っていて、気づかなかったのだ。

「そうだ。
 俺の父親は、今も地方を回っているぞ」

「……お父さん、何処かの社長とかじゃないんですか?」

「いや、うちの父親は高校生の頃、じいさんに健康ランドで見せられた人情芝居にはまって、役者になった」

 なんというフリーダム。

「それ、おじいさまに止められたりとかしなかったんですか?」

「止めなかったな。
 ただ、嫁だけは、いい家からもらわされたようだ。

 なので、うちは完全別居生活で、俺は母親と暮らしている。

 父親は全国を回っているが、母親がこうるさいことを言い出すと、俺は、何ヶ月か父親のところに行ってたんだ」

 息子もフリーダムだな。

「父親が劇団員なので、転入してきたと言うと、大抵、お前も舞台に立つのかと言われてたんだが。

 俺は激しく棒読みだから、舞台には上げてもらえなかったな」

 むしろ、日常生活の方が芝居がかってますよね……。

「地方を回るのも、劇団の人たちと寝起きするのも、大変だったが、楽しかったぞ。

 どんな経験も今に役立っていると信じている」

 そこで、ふと、気づいたように、准は言った。

「そういえば、俺が縁起のいいものにこだわるのは、ばあさんに聞いた話のせいだけじゃなくて、あの頃のことが頭にあるのかもな」

 劇団員のみんなと寝起きしてた頃の、と准は言う。

「役者なんて、浮き沈みの激しい商売だから、みんな、すごく信心深いし、縁起のいいことをありがたがるんだ。

 朝起きたら、必ず、神棚に向かって、手を叩いたりな」

 葉名、と肩を叩かれる。

「お前は俺の初恋の人……ではないが」

 ではないんだ……。

「子どもの頃も出会っていたとは、これもまた運命に違いない」

「いや、今私が言わなきゃ思い出さなかったんだから、なにも運命じゃないですよね?」

 そういえば、ガジュマル買ってきたんですよ、と葉名は、妙な運命に巻き込まれないよう、話を打ち切り、立ち上がる。



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