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呪いの箱を見つけました
今度、開かずの箱を見つけたら――
しおりを挟む准の視線の先には、色褪せたお菓子の本があった。
床に投げた弾みにページが開いたらしい。
何故か、間に、徳用大袋チョコの空き袋が挟まっていたからのようだった。
葉名はそのページを見、
「ああ、バレンタインのチョコレート、懐かしい」
と笑ったが、その袋を手にした准は笑わない。
「そうだ。
思い出したぞ」
と言う。
「お前、昔、俺にバレンタインのチョコくれたろう!」
「ええっ!?
覚えてませんっ!」
「放課後、龍王山公園に行ったら、お前が一番乗りだったらしく、そこに居た。
俺の姿を見たお前は、俺に、
『チョコあげるねー』
と言ったんだ」
その話で一番恐ろしいのは、私が上級生の貴方に、タメ口だったことのような気がするんですが……。
まあ、社長、可愛い顔してたからだろうな、と思う。
「俺は嬉しかった。
お前がその年、俺にチョコをくれた一番乗りだったからだ。
だが、お前はそのあと、来た全員に配り始めた……。
この淫乱女め」
と罵られる。
「ええー?
そんなにたくさんチョコ作った覚えは――」
と言いかけると、これだ! と准はそのお徳用チョコの空き袋を突き出して来た。
「あのとき、お前は俺の手のひらに、これをザラザラッと五個くらいくれたんだ」
「それ、たぶん、お菓子分けてあげただけですよね……?
あの頃、みんな、持ってきたお菓子を、『あげるねーっ』って分けてたじゃないですか」
「でも、二月十三日だったんだ!」
十四日ですらないのか!
「しょ、小学一、二年生がそこまで考えてないですよっ!」
「いや……、あの時期の男は、訳もなく、ドキドキしているものだ。
今年は一個ももらえなかったらどうしようと思ってな」
貴方でもそうなんですか……と思う。
「誰にもまだもらえてなかった男の何人かは、お前が、ザラザラーッと手に入れたチョコのおかげで、きっとお前を好きになったぞ」
「じゃあ、モテたかったら、バレンタインにみんなの手にザラザラーッとやればいいわけですね……」
そんな莫迦な……。
准は、あの、悪王子っ、と思ってしまう悪い笑みを浮かべながら、その空き袋を見る。
「初めてのお前に、勝手にキスなどして悪かったと思っていたんだが。
純真だった俺の男心をお前は既に、もてあそんでいたわけだな」
「いや、そもそも、ちょっと好意を抱いただけで、私を好きになったわけでもないんですよね……?」
それ、私じゃなくて、チョコを好きになったんじゃ、と思う葉名の両の手首をつかんだ准は、
「お返しにもてあそんでやる」
と言い、開いているパントリーの扉に葉名を押し付けた。
「いやっ、あのっ、だからっ。
あげたの、大量袋詰めのチョコですよっ?」
と葉名は叫ぶ。
……『たたたられ』ました。
長年しまい込んでいた呪いの箱に――。
また開かずの箱を見つけたら、今度こそ、迷わず捨てよう、そう葉名は誓った。
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