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呪いの箱を見つけました
下がってますよ、男運が
しおりを挟む散々、葉名をもてあそんだ准は――
とは言っても、実際には言葉でいたぶっただけで、なにもしては来なかったのだが。
「よしっ。
そろそろ、コンビニに朝ごはん買いに行くか」
と言って、立ち上がる。
あー、ひどい目にあった、とようやく准の手から逃れ、床に手をついた葉名を見下ろし、准は言う。
「どうした。
物足りないような顔をして」
……してません。
「やはり、キスのひとつもして欲しかったか?」
いいえ、結構です……と思っていると、准は精神的に疲れ果てている葉名を見下ろし、ふっと笑って言ってきた。
「次のキスはお前が俺を好きだと思ったときな」
えっ? と思わず、訊き返してしまい、
「なんだ。
やっぱりして欲しかったのか」
と笑われる。
「いや、子どものときのこととか、いろいろ思い出してたら。
なんかお前に強引にあれこれするの、可哀想な気がしてきてな。
ちっちゃなお前がにこにこ笑いながら、俺の手にチョコをザラザラくれたときのこととか。
……ま、いいから、支度しろ」
とこちらを見ずに言った准は、先に玄関に向かう。
意外とまともな人ではないか。
まあ、そもそも、子どもの頃だって、ちょっと生意気なだけで、普通に可愛かっ――
と思いかけたが、公園の芝の上を滑るソリが怖くてなかなかできなかったとき、自分のソリを准が笑いながら、押してきたことを思い出す。
やはりそうでもないか、と思いながら、財布と鍵だけを持って出かけようとすると、准は葉名の、外が黄色で中が紫の手のり財布を見、
「なんだ、その欲望まみれの財布は……」
と言ってきた。
「いやっ、可愛いから買ったんですよっ」
そういえば、昔、友だちが、黄色い財布は金回りが良くなると言ってたな、と思いながら、准について、外に出た。
「葉名、黄色の財布は金は入るが、出るのも激しいらしいぞ」
とエレベーターで言われ、金運を気にして買ったわけではないと言ったくせに、葉名は、ええっ? と叫ぶ。
准が笑った。
また二人でコンビニに行き、こんな何度も来てると、暇人だと思われそうだな、と思いながら、葉名はカゴを取る。
少なくとも、社長は暇ではないが、と思ったとき、レジに並んでいる男と目が合った。
背が高く、すっきりした顔立ちなので、人目を引くその男は微笑み、
「やあ、よく会いますね、葉名さん」
と言ってくる。
「……せっかく、運気の上がるガジュマル買ったのに、下がってるじゃないですか。
男運が」
誠二は准を見てそう言った。
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