そこらで勘弁してくださいっ ~お片づけと観葉植物で運気を上げたい、葉名と准の婚約生活~

菱沼あゆ

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呪いの箱を見つけました

なんで、そいつを知っている

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「誠二、なんでお前、葉名を知ってるんだ?」
と准が言う。

 そういえば、と葉名は思い出していた。

 誠二が通りの向こうを厳しい目で見つめ、いけすかない奴が通ったと言っていたのは、自分のマンションから、准が出て行ったあとだった、と。

「お知り合いだったんですか?」

 コンビニの入り口で、葉名が准と誠二に向かい、そう訊くと、

「親戚」
と短くサクッと准は言った。

「お前でも、コンビニとか来んのか」
と准は誠二に向かって、素っ気なく言いながら、葉名の手にあるカゴを取る。

「来るよ。
 僕は今や商店街の花屋の店員だからね」

「……なにやってんだ、お前」

「いいよ、花屋の店員。
 花や観葉植物に埋もれて過ごす日々。

 穏やかな商店街の人たち。

 ときに可愛いお客さんも来るしね」
と言いながら、誠二は葉名を見て、微笑む。

 准と話しているときとは違う、お店に居るときのような穏やかな笑みだった。

「親父さん、文句言わないのか」

「言ってるよ。
 東雲准しののめ じゅんを追い落として頂点に立て!

 とか言ってる」
と本人を前にして、誠二は言う。

「でも、僕はまず、地固めをしてから、前へ進みたいんだ」

「俺もしてるじゃないか、地固め。
 まずは一つの会社からコツコツと」

 いきなり社長になることのどの辺がコツコツなのか教えて欲しい、と葉名は思っていた。

 まあ、あの人と同じかな、と思ったとき、誠二が言った。

「僕はお前とは違う。

 人徳を上げ、みなに慕われるような人間になってから、上に立ちたいんだ。

 お前のような絵に描いた悪代官みたいな奴とは違――」

「お前の番だぞ」
と誠二の話を遮り、准はレジを指差す。

 ああ、すみません、と誠二は店に居るときのような笑顔で店員に微笑みかけながら、カゴを出していた。

「……あの人はどっちがなんですかね?」

 誠二はどうやら、准の親戚で、彼と一族の後継者争いをしているらしい。

 だが、准はもう誠二には興味を失ったように、見切り品の菓子類やなにかを真剣に眺めている。

 珍しいのだろうかな、と思っていると、チョコの箱を手にとって見ながら准は言う。

「どっちが地ってこともない。
 あれがあいつの全部だよ」
と。

 計算高そうなところも、温厚で親切なところも、全部含めて誠二だと言う。

 そんな准を見ながら、この人のそういうところは好きかな、とちょっとうっかり思ってしまった。

 相手のあるがままを全部受け止めてくれそうなところ。

 一緒に居て、なにも無理しなくていい。

 そういえば、高校のとき、部活の買い出しで、格好いい先輩と二人でコンビニに来たことあったっけ、と夜でも明るい店内を見ながら葉名は思い出す。

 あのとき、すごく緊張して。

 楽しかったけど、どっと疲れた。

 社長はあの先輩より、もっと格好いい気がするけど、一緒に居ても疲れないな。

 ……いや、違う意味では疲れるのだが。


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