そこらで勘弁してくださいっ ~お片づけと観葉植物で運気を上げたい、葉名と准の婚約生活~

菱沼あゆ

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呪いの箱を見つけました

か、会話が噛み合ってないですよ

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 葉名の家に戻った准は、念願の、『缶詰からコーンをザクーッ』をやりながら、言ってきた。

「あれを供養してやらねばな」

 その視線の先には、窓辺のガジュマルの横に置かれた、呪いのクマがあった。

 いや、呪われていたのは箱とあのチョコレートの空き袋だったが。

「えっ?
 飾っておこうかと思ったんですけど」

 どうやら、捨てる気だったらしい准に葉名は言う。

 本などは、あのお菓子の本以外は縛って捨てる準備を整えてある。

 ……美文字練習帳もだ。

「そうなのか。
 じゃあ、洗った方がいいぞ」

「そうですかね?
 天日干ししてたら、大丈夫かな、と思ったんですが」

「汚れてるじゃないか。
 ぬいぐるみのクリーナーみたいなのあるよな。

 それか、風呂場で押し洗いしてみるとか」

「そうですね。
 クリーナー買っても、他には使わないのでもったいないから、ちょっとやさしく洗ってみましょうか」

 縮むかな、と思っていると、
「じゃあ、風呂に入るか」
と准は言ってくる。

「……洗ってくださるんですか?」

「そうだな。
 一緒に洗おうか」

 えーと?

「うちの風呂の洗い場、二人で入ったら狭いですよ?」

「じゃあ、お前は湯船に浸かっとけばいいじゃないか」

 えーと……?

「あのー、さっきから、会話が噛み合ってない気がするんですが」

「なんでだ。
 俺は明確に意思を伝えているぞ。

 仕事のときも、短いメモで的確に、が俺のモットーだからな。

 葉名。
 一緒に風呂に入って、一緒にクマを洗おう」

「一緒に風呂の洗い場に入って、一緒にクマを洗おう?」

「一緒に風呂の湯に浸かって、一緒にクマを洗おう」

 短く、明確に准は言ってきた。

「おかしなことを言い出すのなら、帰ってください」
と言うと、准は、

「お前、男が下心もなしに一人暮らしの女の家に居ると思っているのか」
と、もう少し、なにか包み隠してください、と思うようなことを言ってくる。

「……あのー、さっき、私が貴方を好きだと思うまで、なにもしないって言いませんでしたっけ?」

「いや、キスをしない、と言ったんだ」
と再び、准は、短く、明確に言ってくる。

「さあ、入ろう」
と手をつかんで来る准に、

「いやいやいやっ。
 もう出勤時間ですしっ」
と葉名は踏ん張る。

「じゃあ、今日帰ってきたら、クマを洗おう」
と壁の時計で時間を確認し、准は手を離してくれた。

 やれやれとグラス類を片付けるフリをして立ち上がった葉名は、そっと避けておいた交換日記を准の目につかない場所に移す。

 見られたら、全部捨てろって言ったろ、と言われそうだったからだ。

 キッチンから、チラと窺うと、准は何故か、あのチョコレートの空き袋を眺めていた。




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