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とりあえず、洗ってみようっ!
じゃあ、おやすみ
しおりを挟む「俺は社長で、誠二は誠二さんか」
と准に言われた葉名は、
「だって、苗字知らないんです」
と答える。
「じゃあ、俺のことも名前で呼べ」
と言われたが、准さんとか恥ずかしいし、准くんじゃ、舐めてんのかとか言われそうだし。
少し考えたあとで、葉名は言った。
「じゅ、准社長」
「副社長みたいだからやめろ……」
降格したみたいじゃないか、と言ったあとで、葉名の腕をつかんでくる。
「な、なんなんですか?」
と言うと、
「いや、もう好きになったか?」
とまたあの目で見つめ、訊いてくる。
いやいやいやいや、と思っていると、
「好きになれ。
キスするから」
どんな脅迫ですか、と思っていると、准は腕を引いて葉名を抱き寄せた。
後ろ頭を押さえられたので、准の肩辺りに顔を押し付けられる感じになる。
社長の匂いがするなー。
なんか落ち着く、と思いながら、うっかりそのまま目を閉じそうになる。
クマを洗った疲れに、准の体温が心地よく、寝てしまいそうだった。
そんな葉名の耳許で准が語る。
「この間、お前にキスしたのは、そうまでして、運気を上げて、なにか欲しいものがあるのかとお前に問われたとき、ガジュマルが視界に入って」
何故、ガジュマル?
と思っていると、
「いや、今、俺は『あれ』より、目の前に居るこいつが欲しいかなと思ったからだ」
と言ってきた。
『あれ』ってなんだろ? と思っていると、少し間を開け、准が、
「好きになったか?」
ともう一度、訊いてくる。
「……なりません」
「好きになれ。
キスするから。
そしたら、帰る。
……ならないなら、帰らない」
どんな押し売りよりタチが悪いな、と思っていると、准は、
「お前と居ると、なんだか落ち着くんだ。
お前がよく知っているモンキーだったからかもしれないが」
と言ってきた。
いや、その言い方だと、私がよく知っている猿だったから、みたいに聞こえるんですが……と思っていたが、どうやら、真剣に語っているらしい准は、
「キスさせてくれるまで帰らない」
と言ってくる。
そのまま、離しそうもないので、なんとなく、
「じゃ、じゃあ、いいですよ」
と何故か言ってしまった。
何故だろう?
もう眠かったからだろうか?
「好きになったのか?」
「なってませんけど」
と言うと、
「……淫乱だな」
と囁いて、そっと軽く触れるだけのキスをしていった。
「じゃあな、おやすみ」
と言い、准は出て行く。
扉が閉まったあと、葉名はぼんやり部屋に戻った。
ソファに腰掛け、大きめのクッションを抱くと、ふう、と息をつく。
ひとりになった部屋はちょっと寂しく、そして、片付いていた。
来たときよりも美しく。
ある意味、日本人の心を体現したような人だ……。
それにしても、私の部屋ばっかり綺麗にしてもらって申し訳ないな、と葉名は思った。
「この俺が結婚してやると言ってるんだ。
必ず、幸運をもたらせよ」
そう言った准の言葉を思い出す。
私からはなにもしてあげてない。
そう思いながら、立ち上がると、電子レンジの近くに立てかけてあるレシピ本の陰に隠した古びたノートを引っ張り出した。
准に丸ごと捨てろ、と言われた荷物のひとつ、交換日記だ。
なんとなく嫌な予感がしたので、ちょっと確認したかったのだ。
ぱらりとめくったあとで、やっぱりな……と思う。
本と一緒に縛って出すのは危険な感じがしたので、外しておいたのだ。
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