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考えすぎて捨てられませんっ! ~グリーンネックレス~

ただいま疑心暗鬼中

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 葉名は箱から出てきた交換日記を始末しようとしていた。

 だが、原型を留めたまま、本と一緒には出せない。

 誰がなんの弾みで見るかわからないからだ。

 めぐりめぐって社長の手許にこれが行ってはまずい、と葉名は思っていた。

 なにかに包んで、燃えるゴミに出してもいいが、回収途中で袋が破れて、ポロッと落ちて。

 そして、社長の手許に届いてしまうかもしれない――。

 葉名は完全に疑心暗鬼におちいっていた。

 そのくらい、此処に書かれている内容に問題があったからだ。

 消してから捨てるとか?

 だが、社会人になってからは、鉛筆とかシャーペンとかあまり使わない。

 メモを取るのも書類を書くのも、ボールペンかパソコンだからだ。

 なので、消しゴムもすぐにはなかった。

 だがまあ、消したところで、私の筆圧は強いから、跡が残るしな。

 その上から、鉛筆とかクレヨンで、ガーッと塗りつぶしたら――

 文字が浮き出るな……。

 いっそ、燃やしたらどうだろう。

 そうだ。
 すべてを灰に! と思ったのだが、この家はオール電化だし、マッチもライターもない。

 こすったり、打ちつけたりして、火を起こそうにも、木もなければ、火打ち石もない。

 第一、火災報知器が鳴りそうだ。

 ……今すぐ、田舎に引っ越したい。

 農家の人がなにか焼いてるところに行って、そっとこれを火にくべて来たい。

 そこまで追い詰められたあとで、いや、こういうのが問題なんだよな、と思う。

 こうやって、いろいろと捨て方を悩んでしまい、結局、物を捨てられなくなってしまうのだ。

 うーむ。
 シュレッダーは今、壊れているが。

 誰もつなぎ合わせられないくらい、ジャキジャキに切るとか、裂くとかすればいいか。

 そう結論づけた葉名は問題のページを開いた。

 だが、破り取ろうとした手が止まる。

「必ず、幸運をもたらせよ」
と言った准の顔が頭をよぎったのだ。

 葉名は少し迷ったあとで、よし、パントリーに隠そう、と日記を閉じた。

 綺麗になった此処に再び、放り込んでいるとは思うまい。

 そう思いながら、葉名は、パントリーにあるカゴの向こう側にそれを落とした。




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