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あやうく、わらしべ長者になるところでした ~パキラ~

ありがたいイケメン様の説明つきって言うのがいいわね

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「好みではないけど。
 ありがたいイケメン様の説明つきって言うのがいいわね」

 そんなことを呟きながら、涼子はグリーンネックレスの鉢を抱えて帰っていった。

 敦子はしばらく誠二と話したあとで、
「今日はとても楽しかったですっ。
 また来ますっ」
と言って去っていった。

 葉名は二人とは反対方向なので、なんとなく花屋の前に立ったまま、彼女らを見送る。

 誠二を振り返り、えーと、と思ったあとで、
「……コロッケ、おひとつどうですか?」
と茶色い紙袋から、コロッケをひとつ差し出した。

「ああ、ありがとう。
 晩ご飯にでもさせてもらうよ」
と微笑み、誠二はそれを受け取る。

 こうしてると、普通に愛想のいい人なのになー、と思っていると、
「男運が上がって、准と別れられる植物は入荷してないけど。
 いい感じのパキラが入ってるよ」
と観葉植物の並んだ丸テーブルの向こうにあるパキラを誠二は手で示す。

 細い幹が三つ編みみたいに編んである、小ぶりなパキラだった。

 これなら、抱えて帰れないこともない。

「パキラはなんといっても、育てやすいからね。
 ほんとは十メートルくらいになる木だから、こういうのは本当に、まだまだ幼木なんだよね。

 本当は、今、君にはオススメしたくない感じなんだけど。

 パキラの花言葉は、勝利。

 ……勝利だからね」
とパキラを見ながら誠二は呟いている。

 私が勝利してはいけないのですか……? と思っていると、誠二は、こちらを振り向き、
「ああでも、悪い虫を追い払えばいいんだよね。
 パキラを玄関に置くと、悪いモノを遠ざけてくれるよ」
と言ってきた。

 悪いモノとは、もしや、あの人のことだろうか……?
と思う葉名に、

「そうだ。
 コロッケのお礼にこのパキラあげるよ」
と誠二は言い出した。

「ええっ!?
 そのコロッケ、百円もしてないですよっ?」

「いいよ、あげるよ」

 家まで持っていってあげる、と言う誠二に葉名は慌てる。

 誠二を家に入れるな~と鬼のような形相で、准が言っている気がしたからだ。

「あー、いえいえいえ。
 結構です~っ。

 その、我が家で十メールくらいになっても、大変ですしー」
と言って、

「いや、そこは切りなよ……。
 っていうか、ならないよ」
と言われてしまった。




 誠二がどうしてもパキラを運んできてくれると言うので、葉名は誠二がお客さんの相手をしている隙に、お金を置いて、

「お釣りはいりませんっ」
と叫び、パキラを抱えて、逃亡した。

「えっ? ちょっとっ」
と誠二はこちらを振り返りながら言うが。

 少し耳の遠いおばあちゃんが来ていたので、そちらも気になるらしく、誠二が何度もあっちもこっちも見ている間に、葉名は商店街を出ていった。

 重い……パキラ。

 そして、これ、何処に置いたら。

 玄関に置けと誠二さんは言ってたけど、うちのマンション、玄関は真っ暗だしなー。

 第一、玄関に置いたら、社長が来なくなると言うのなら――

 言うのなら――

 まあ、それでいいはずなんだが、とりあえずは置くまい、と思いながら、葉名は家へと帰った。



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