そこらで勘弁してくださいっ ~お片づけと観葉植物で運気を上げたい、葉名と准の婚約生活~

菱沼あゆ

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あやうく、わらしべ長者になるところでした ~パキラ~

タイムスリップしたのだろうか……?

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 うう、重かった。

 とりあえず、窓辺の床にパキラを置いてみたら、夕陽が差し込む中に、パキラ、クマ、ガジュマルが並んでいて、すごくいい感じだった。

 うん、此処でいいじゃないか。

 パキラ、クマ、ガジュマル……

 ……クマ!?

 そこで、ようやく葉名はクマを下ろした。

 クマはふかふかになっていた。

 ぎゅっと抱きしめると、お日様のようないい匂いがする。

 洗ってよかったな、と思った。

 幼い頃、このクマを小脇に抱えて遊んだ、夕暮れの龍王山公園を思い出す。

 あの頃はまだ、お父さんもお兄ちゃんも居たっけな、とちょっと切なくなった。

 さて、今日は早く帰れたし、社長も来ないようだから、コロッケとなにかで軽くご飯食べて、おうち片付けるか、と葉名は最近、社長のおかげで、比較的片付いている室内を見回した。
 


 ピンポン、とチャイムが鳴って、振り返った葉名はリビングの扉の上にある丸時計に目をやった。

 ……どうやら、タイムスリップしたようだ、と思う。

 もう十時半なんだが、どうしたことだ。

 さっき、夕暮れどきに、お掃除しよう、と誓ったばかりのはずなのに。

 テレビの下を片付けているうちに、時をかけてしまったようだった。

 過去にはタイムスリップできないが。

 未来には簡単にできるようだ、と思いながら、葉名はテレビの画面を見つめた。

 後ろでは、チャイムが連打されている。

「開けろっ、葉名っ。
 さもなくば、鍵を寄越せっ」

 その言葉に、やっぱり、過去に飛んだのだろうか、と一瞬思う。

 この人、この間もこんなことを言っていたような、と思いながら、インターフォンに向かい、

「すみません。
 今、森に行って、材料を集めてるんですが。

 全部集まってないんですよ。
 あと二日で依頼品を完成させないといけないのに」
と言って、

「なに言ってんだ、葉名っ。
 現実に帰ってこいっ」
と准に叫ばれた。

 

「……ゲームやってたのか」

 テレビの前の惨状を見ながら、呆れたように、准は言う。

 いやあ、と葉名はまだぼんやりしたまま、答えていた。

「テレビの下がごちゃっとしてたので、片付けようと思ったんですよ。

 木のカゴを引っ張り出したら、古いゲームが出て来たので、捨てる前に一度やろうかと――」

「よくおちいる罠だな……」
と腕を組み、結局、散乱させただけのテレビの下の木製のカゴの中身を見ながら、准は呟く。

「大丈夫です。
 すぐ正気に戻ります。

 今は、なんで私、こんなところで、呑気に会話してるんだろう。

 早く森に帰って材料集めなきゃって思ってますけど、すぐに正気に戻りますから」

「……そんなことをいい大人が人に向かって堂々と言ってる時点で、相当正気じゃない気がするがな。
 ところで、飯は食ったか?」

「はい、食べました」
とまだ、森から抜け出せないまま、葉名が言うと、

「そうか。
 もし、食べてないようなら、一緒に食べに行こうと思ったんだが」
と准は言う。

「そうだ。
 コロッケがありますよ。

 商店街のお肉屋さんのコロッケ、美味しいですよ」
と言うと、

「商店街?
 また、誠二のところに行ったのか」
と准は眉をひそめる。

「はい。
 コロッケがパキラになって、わらしべ長者になるとこでしたよ」
と言って、

「……早く現実に帰ってこいよ」
と言われてしまったが。

 いやいや、そこは現実に起こったことですよ、と思いながら、葉名はキッチンへと向かった。



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