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あやうく、わらしべ長者になるところでした ~パキラ~
正気になりました……
しおりを挟む准のために、コロッケやご飯を温めているうちに、葉名は完全に正気に戻っていた。
「あのー、こんなものでよかったですかね?」
社長にコロッケと残り物なんて出していいだろうか、と今になって気がついたのだ。
「……社長?」
と呼びかけてみるが、准からの返事はない。
電子レンジの方を見ていた葉名が振り向くと、准はゲーム機のコントローラーを握り、連打していた。
「……社長」
呆れたような葉名の呼びかけに、准はハッと我に返り、
「俺までやってしまったじゃないかっ。
俺の貴重な時間を返せっ」
と叫び出す。
うーむ。
この人も所詮、同じ穴のムジナのようだ。
そういえば、パントリーのときも、結局、一緒に脱線してしまったし。
二人でやっても、あんまり片付けが進まないはずだな、と思いながら、ダイニングテーブルに食事の載った盆を置いた。
「恐ろしいな、ゲームと漫画。
つい、最後に、と思って読んだりやったりして、罠にはまるよな」
と言いながら、准は葉名の用意した晩ご飯を食べていた。
「美味いな、このコロッケ」
「でしょう?
揚げたて、もっと美味しかったんですよ」
「ほとんどイモなのに、なんで、肉屋のコロッケは美味いんだろうな?
コロッケを揚げるラードがいいからという話もあるが――」
と准が言いかけたとき、ピンポン、と鳴った。
え?
今、十一時なんだけど、と葉名は時計を見る。
「誠二が釣り銭持ってきたんじゃないのか?」
と准は言うが。
いや、あの人はこんな非常識な時間にお客さんの許を訪ねてきたりはしないだろう。
第一、うちを知らないはずだし。
……もっとまずい人な気がする、と思いながら、葉名は立ち上がる。
准より先にと、葉名は急いでインターフォンの画面を見た。
げっ、やっぱりっ、と思った瞬間、
「葉名ーっ。
開けてよーっ」
とインターフォンの向こうで、相手が叫び出したので、葉名は慌ててボリュームを絞る。
ところが、いつの間にか真後ろに立った准が葉名越しに壁に手をつき、インターフォンに向かって言った。
「陽子、入ってこい」
「えっ? 誰っ?」
とこのマンションの持ち主にして、葉名の従姉妹、樟木陽子が訊き返す。
「俺だ。
東雲准だ。
久しぶりだな、陽子」
「やだーっ、准なの!?
なんで、うちに居るのっ?
あっ、もしかして、葉名と付き合ってるのっ?
えっ?
なんでっ?」
と玄関ロビーでかしましく話し出す陽子の声を聞きながら、葉名は、
あー、やっぱりなー、と思いながら、インターフォンで話し出す准を避けるようにその場に座り込んだ。
実はちょっと疑っていたのだ。
准は、やけにこのマンションは誰のものかと突っ込んで訊いてきた。
妙に廊下などを見回していたし。
うろ覚えな感じではあるが。
此処が誰か知り合いのマンションだった気がする、と確認している風にも見えていたからだ。
しかも、実は、陽子と准は同じ大学で、年も同じ。
「こう見えて、陽ちゃん、頭いいからなー」
とぼそりともらすと、
「ちょっとーっ。
聞こえてるわよ、葉名ーっ」
と叫んだあとで、陽子は消えた。
准がロックを開けたらしい。
「しかし、あいつ、自分のマンションだろうに。
鍵は今持ってないにしても、暗証番号も覚えてないのか」
と准は呆れたように言う。
「……陽ちゃんですからね」
勉強のできる人が実生活でも賢いかと言うと、そうでもないという典型的な人だ。
まあ、だからこそ、付き合いやすいのではあるが。
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