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好みでないのなら言い寄ってこないでください ~ガーベラ~
一生共に暮らそう
しおりを挟むあっさり、母、佳恵に売り飛ばされた葉名が固まっていると、母の主治医、室田が、
「えーと、社長さん?」
と言いながら、准の手を取る。
「葉名さんをよろしくお願いしますね」
……そうか。
やっぱり、お母さんは、このムーミンみたいな人と結婚するのか。
准にも少し似た濃いめのイケメンだった父とは全然違うが、なんだか安心できる感じの人だ。
「社長くん」
と佳恵が准に呼びかける。
……うーむ。
先生もお母さんもやっぱり、『社長』をあだ名だと思っているようだ。
などと考えている葉名の前で、佳恵は准を見上げ言ってきた。
「葉名には今まで、私の勝手でずいぶん苦労をかけてきたの。
離婚したあと、ずっと実家からの援助を断り続けていたせいで。
ごめんなさいね、葉名。
親の反対を押し切って、結婚した手前、私にも意地があったのよ。
みんなには、あんな、ろくでなしとは結婚するなと言われて、結婚したけど。
……本当にろくでなしだった」
えーと。
「私は本当に男を見る目がないのよ。
つくづくよくわかったわ」
と母は猛省したあとで、
「でも、社長くん、貴方なら安心だわ。
葉名をよろしくね。
私も今度こそ、この人と幸せになるから」
と准と室田を見る。
……今、男を見る目がないと言い切ったその口で言われても、全然説得力がないんですが、と思う葉名の横で、准はガーベラの花束を佳恵に渡しながら言った。
「お幸せに、お義母さん。
幸せになるのに、遅いなんてことはありませんよ。
失敗は前に進むためにするものですから。
ガーベラの花言葉は、『常に前進』です」
「素敵ね、常に前進」
と二人は頷き合っているが。
いや、この二人、よくわからない方向に前進しがちなんだが……。
……室田先生、巻き込まれないでね、と葉名は人の良さそうな医師を見た。
「お前、実は苦労してたんだな。
そうは見えないが」
と病室を出たあと、准が言ってきた。
「まあ、苦労ってほどでもないです。
母が離婚したの、私が結構大きくなってからでしたし。
でも、私と結婚すると、あの困った父も付いてくるので、私はオススメ商品ではありません」
と謙虚に言ってみたのだが、
「今更だ、葉名」
と准は肩を叩いて言ってきた。
「そもそもお前は、そんなにオススメ商品でもない」
いや……だから、好みでないのなら言い寄ってこないでくださいよ、と思いながら、二人で廊下を歩いた。
お休みの日なので、よその患者さんのご家族もたくさん来ているようだった。
談話室から楽しげな笑い声が聞こえてくる。
葉名がそちらを見ながら歩いていると、いきなり准が手を握ってきた。
「な、なんですか……」
とちょっと赤くなりながら、見上げると、
「いや。
こういうところに来ると、余計、家族とか夫婦愛とか感じるよな。
俺たちは一生仲良く暮らそうな」
と真顔で言ってくる。
……だから、いつ、私が結婚を了承したことになってるんですか、と思いながらも目をそらした。
すると、
「お前のその父親にも挨拶した方がいいか?」
と准が訊いてくる。
「いえ、父にはいいです」
と言いながらも、
まあ、もう会ってるかもしれませんけどね、と葉名は思っていた。
そのとき、
「よしっ」
と准が握る手に力を込めてきた。
「今から、うちの父親に会いに行こう!」
「えっ?」
「ちょうど近くで巡業してるんだ。
夕方の部なら見られるぞ」
と言ってくる。
は?
そのまま手を引かれ、病院前でタクシーに押し込まれる。
タクシーは駅へと向かい、新幹線に乗って、違う県まで行ってしまった。
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