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よしっ、うちの親に紹介しよう! ~サクラソウ~

全然、悪王子のお父様っぽくないですね

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 新幹線が着いたあと、葉名たちはまたタクシーに乗って、健康ランドに向かい、准の父も出演している芝居を見た。

 終わって、廊下を歩いていると、准が言ってくる。

「お前、いつまで泣いてんだ?」

「いや、だって、素晴らしかったですっ」
と葉名はハンカチ片手に訴える。

「私、子どもの頃、家族旅行に行ったときくらいしか、こういうお芝居見たこと無かったんですけど。
 涙あり、笑いありで、感動しましたっ」

 会場の半分くらいは追っかけのような常連さんで、楽しげなかけ声も微笑ましく、和気あいあいとした雰囲気で凄くよかった。

「うっかり私も次の巡業先まで追いかけていきそうになりましたよ」
と言って、

「……そこまではやめてくれ」
と言われてしまう。

「あっ、准!
 久しぶりー」

 曲がり角の先から、ひょいと現れたのは、白塗りに着物姿、舞台に上がっていた状態から、カツラを外しただけの若い男だった。

 楽屋には連絡してあったようだ。

 しかし、こうして見ると、普通のイケメンだなあ、と葉名はマジマジとその座長の息子とかいう美しい人を見た。

 さっきまで、色の白さと細さも相まって、ゾッとするくらい綺麗な女の人に見えていたのに。

けいさん、中居るよ、どうぞー」
と言われ、楽屋に通してもらう。

 うわー、なんか緊張する、と思っていると、鏡の前に座る男の人が鏡越しにこちらを見て、微笑む。

「准、それと、葉名さんか」

 そう言う准の父を見て、葉名は思わず言っていた。

「……社長は、お母さん似なんですね」

「どういう意味だ」

 いや、整った顔立ち自体は似てはいるのだが。

 准の父、慶一郎けいいちろうは室田医師くらい人の良さそうな顔をしていて、邪悪さのカケラもない。

 そして、准の父親もさっきまで綺麗な女の人だったのに、今はちゃんとお父さん、という雰囲気をかもし出していた。

 まだ頭はカツラとったそのままだが……。

「やあ、可愛い娘さんだね。
 おばあちゃんの若い頃に似てるかな?」
とこちらを振り向き、慶一郎は言ってきた。

 ま、また、此処で私、おばあちゃん疑惑がっ、と笑顔のまま怯える。

 それに気づいたように、慶一郎は、
「おばあちゃんは若い頃はとても綺麗な人だったんだよ。
 自分の母親に対して、そんなこと言うのもおかしいけどね」
と言って笑った。

 あ、サクラソウだ。

 慶一郎の後ろ、鏡の前に白いサクラソウの鉢があった。

「あ、これ?」
と葉名の視線を追い、慶一郎が微笑む。

「これ、ひとみさんに、昔もらったんだ」
と嬉しそうだ。

 瞳さんというのは、准の母親らしい。

 慶一郎は、昔、瞳がくれたというそのサクラソウの鉢を大事にして、毎年、花を咲かせているという。

 ピュアな人だな、と葉名は思った。

「全然、悪王子のお父様っぽくないですね」

 思わず、口からそんな言葉がもれて、

「おい……」
と准に睨まれ、慶一郎に笑われた。



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