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よしっ、うちの親に紹介しよう! ~サクラソウ~
白いサクラソウの花言葉
しおりを挟む「素敵な人ですね」
帰り道、タクシーの中で葉名がそう言うと、
「ありがとう。
自慢の父だ」
と准は言ってくる。
「お母様も素敵な方ですね」
と言うと、准は眉をひそめて訊いてきた。
「会ってないのに何故わかる?」
「あのお花、銀婚式のあと、お母様が贈ってこられたと聞きました。
白いサクラソウの花言葉、なんだかご存知ですか?」
准は黙ったが、その表情から、おそらく知っているのだろうと思われた。
植物園のような庭を持つ准の祖母に育てられた慶一郎も。
そして、そのことをわかっているからこそ、准の母は、あの花を慶一郎に送ったのだ。
白いサクラソウの花言葉は『初恋』。
「素敵なご夫婦ですね」
と葉名は微笑む。
「ああ見えて、ピュアな人たちだとは思うよ。
だが、俺は例え新鮮さが薄れようとも、離れて暮らすのは嫌だな」
葉名、と見つめてきた准は、
「例え、お前に飽きても、一生見捨てないでいてやるからな」
と両の肩を叩いてくる。
「そっ、それはこっちのセリフです~っ」
何故、そっちが一方的に飽きる話にっ、と思いながら、准の手を引きはがそうと頑張るが、准は笑って離さない。
「……このまま、何処か行こうか」
思わず、どきりとしたとき、葉名のスマホが鳴った。
葉名が片手で鞄からそれを出すと、
「スピーカーにしてやろう」
と准もまた片手だけ外して、勝手にスマホの画面に触る。
「ええっ?
なんかまずい電話だったら、どうしてくれるんですかっ」
ともう片方の手で、まだ准の手を外そうとしながら、葉名は言う。
「まずい電話がかかる当てでもあるのか」
「ありませんけどっ?」
他に浮いた噂もありませんが、それがなにかっ?
と喧嘩腰に思ったとき、
『葉名~』
と陽子の声がした。
『葉名、今、暇?
准も居る?
この間のお詫びにお寿司おごるから来てー』
と陽子はまた唐突なことを言い出す。
いや、お詫びって、あのマンション、もともと陽ちゃんのだし、と思っている間に、
「行く。
住所を言え」
と勝手に准が返事をしていた。
電話を切ったあとも、准はまだ、肩をつかんでいる。
「もう~、離してくださいよーっ」
と訴えてみたが、准は、
「嫌だ。
俺はまだ、こうしてお前と戦っていたいんだ」
と言う。
「何処のスポ根物のセリフですかっ」
「いや、正確には、俺はこうして、お前とじゃれあっていたいんだ」
真顔でそういうことを言わないでくださいっ、と赤くなりながら思ったとき、聞いていないかと思われたタクシーの運転手さんが吹き出した。
は、恥ずかしい……と思いながら、葉名はうつむく。
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