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おばあちゃんになっても―― ~シュロチク~
あー、この人が肉まんとピザまんの
しおりを挟むその寿司屋は葉名の住むマンションから割り合い近くにあった。
だから、喧嘩して雪崩込んできたんだな、と思いながら、まだいい木の香りがする白木の戸を准が開けるのを見ていた。
「おごってくれなくていいぞ、陽子。
寿司が食いたかったから来ただけだ」
と戸を開けるなり、准は言う。
本当に、なんでも短く明確に言う人だな。
仕事の癖が抜けないんだな、と思っていると、
「あ、いらっしゃーい」
と陽子がカウンターの中から手を振ってくる。
陽子にしてはおとなしめな翡翠色の着物を着ていた。
「玄ちゃんでーす」
と陽子は横に居る若い板前さんを手で示す。
落ち着いた雰囲気で端正な顔をしているその男を見ながら葉名は思った。
あー、この人が肉まんとピザまんの玄ちゃんさん。
……お寿司屋さんだったのか。
「もう今日は閉店だったんだけど、葉名たちのために開けてもらったのよ」
と陽子は言う。
そういえば、入り口に休憩中のような札がかかっていたな、と思い出す。
いきなり、准がガラガラと白木の格子の戸を開けてしまったので、確認する間もなかったのだが。
そんなことを考えていると、無骨そうなその板前さんが頭を下げ、挨拶してきた。
「初めまして。
中川誠一郎です」
……何処にも玄の字がないんだが。
陽子はこちらの疑問には気づかず、ニコニコしている。
なので、誠一郎が、
「いや、最初の頃、陽子さんに、玄米茶をお出ししたら、これが、玄米茶って言うんだーとおっしゃいまして、それから、玄ちゃんに」
そう照れ笑いしながら、教えてくれた。
いや、玄米茶、飲んだことあるだろ、陽ちゃん……と思ったが、まあ、おそらく、飲んでるものがなんなのか、今まで知らずに飲んでたんだろうな、と思う。
葉名たちも挨拶をし、話しながらお寿司をいただいたが。
誠一郎はとても感じのいい青年だった。
一口噛むと甘さの広がる、もっちりとしたイカなどいただきながら、葉名は言った。
「……おかしいです。
此処のところ、いい人にばかり出会っている気がするんですけど。
側に常に邪悪な人が居るから、そう感じるだけなのでしょうか」
「お前、思ってること全部口から出てるが、酔っているのか」
と横で准が言ってくる。
酔っているという程ではないが、確かに、ちょっと気持ちが良くなっていた。
閉店したお店を貸し切り。
ちょっぴり邪悪な人も混ざっているが、気の置けない人々と、美味しいお寿司と美味しいお酒。
なんだかまったりしてしまう。
「おかしいといえば、私もおかしいのよ。
今回は騙されそうな気がしないわ」
と陽子が言ってくる。
いつも騙されそうとわかってて、騙されてたのか……。
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