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ロミオとジュリエットは離婚しました ~シマトネリコ~
男の友情、よくわからない
しおりを挟む社長室に入ると、葉名と准が並んで座り、その向かいに、練人が座った。
その配置を葉名はちょっと不思議に感じる。
少し前までは、兄と自分が家族で、こういうときは、横並びに座っていたはずなのに。
でも、大人になるというのは、こういうことはなんだろうな、とも思っていた。
生まれ育った家族の中から巣立ち、新しく出会った人々と関係性を作っていくと言うことは――。
そんなことを考えていると、練人が言った。
「それで、東雲社長。
貴方ほどの人が、なんでまた、うちの妹と」
おい、兄。
自分の中の兄の評価が低いのと同じに、この兄の自分への評価もかなり低いようだった。
「それが、二階堂さん。
実は、私と貴方の妹さんは筒井筒の仲で。
幼い折、『社長』『モンキー』と呼び合い、親しんでいたのです。
そして、再会して、十年愛を実らせたんです」
あっ、また、適当な話を、と思ったのだが、そこで練人が、
「あっ、社長っ」
と叫んで、手を打った。
急にどうした、と思ったのだが、『社長』と呼んだのは役職名ではなかったようだった。
「そうだ、社長じゃないかっ。
そういえば、面影があるっ」
と敬語を崩し、懐かしげに笑い出した。
「常務、私をご存知でしたか?」
と訊く准に、
「俺は年が離れてたから、お前らとはあまり遊んでないが。
そういえば、居たな、社長。
可愛い顔して、悪い奴だった」
元気か? と言い、練人は准の肩を叩いている。
「覚えてないか?
俺はいつも龍王山公園のサイクリングコースを自転車で回ってた」
「あっ、上級生のっ。
葉名のお兄さんだったんですかっ」
といつの間にか二人は立ち上がり、お互いの腕を叩いて、再会を喜び合う。
なにかの健闘を称え合っているかのようだ。
男の友情、よくわからない、と思いながら、葉名は座ったまま、二人を見上げていた。
そういえば、なんだかわからないが、こう、前のめりになってハンドルを握る、競輪選手が乗るような自転車を華麗に(?)乗りこなす兄たちは、下級生男子たちの憧れの的だった。
そもそも、仕事で来たんだろうに、二人は仕事も葉名もほったらかして、昔話で盛り上がっている。
そこに、
「失礼します」
と涼子が入ってきた。
お茶を運ぶのを手伝おうと立ち上がりかけたら、いつもの鋭い目つきと手振りで、
『いいから、あんたは座ってなさいっ』
と命じられる。
……はい、と葉名は静かに腰を下ろした。
お茶を出す涼子に、練人は、
「ありがとう」
とすかさず、微笑みかけている。
涼子が赤くなった。
うむ。
こういうところは相変わらずだな。
相変わらずの、女たらしのろくでなしだ。
お父さんにそっくりだ、と思いながら、お茶をいただく。
美味しいな。
さすが、三浦さん、と思ったところで、ようやく葉名の素性の話になった。
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