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俺に幸運を与えるものは――

お前のような悪党には渡せない

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 こんな呑気な商店街で、コロッケかじりながら、東雲グループの覇権争いか、と思いながら、葉名は、

「あのー、あれってなんですか?」
と訊いてみた。

 二人はこちらを振り向き、言ってくる。

「ばあさんの植物園だ」

グランマおばあちゃんの植物園だよ、葉名さん」

 あ~、と葉名は笑って、声を上げた。

「いいか、准。
 おばあちゃんの植物園は僕が手に入れる。

 そのためには、あの屋敷を手に入れなければ。

 それには、東雲グループの後継者になることが重要だ」
と誠二は言う。

「一番後継者に近いのはお前だ、准。

 努力だけででは、なにも勝ち取れない。

 僕は運気を上げ、お前を追い落として、東雲グループを継ぎ、あの植物園を手に入れる!」

 それが子どもの頃からの僕の夢だっ、と誠二は高らかに宣言する。

「いや、お前のような悪党に、あの植物園は渡せんな」
と言った准は、こちらを振り向き、言ってくる。

「聞いてくれ、葉名。
 こいつは、昔から悪い奴だったんだ。

 こんな温厚そうなのに、俺をかくれんぼで、かくれていた押し入れから、笑いながら突き落としてみたり――」

「……私、そんな感じの人をもうひとり知っていますよ」

 いえ、その人は、見るからに邪悪そうなんですけどね、と准を見る。

 だいたい、悪い奴って、おばあちゃんの植物園を手に入れたい程度の悪い奴ですよね……? と思っていると、誠二が言い出した。

「僕は運気を上げるため、此処で植物とたわむれ、善行を行っているんだ」

 損得尽そんとくづくですか? と思ったのだが、語っている途中で、重い荷物を抱え、よろよろしているおばあちゃんを見た誠二は、

「あっ、おばあちゃん、持ちましょうっ」
と走って行ってしまう。

「……なんだかもう、善行を行うのが習慣化してるようですね」

 ただのいい人なんじゃないですか? と葉名は笑う。

 すると、准が、
「そうだ、葉名。
 指輪を返せ」
と言ってきた。

 ええっ? と葉名は振り返る。

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