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騙されました!
今すぐ結婚しなさい
しおりを挟むおばあちゃんとか、グランマとかいう言葉に騙されました……。
香り高い英国紅茶を前に、白いアイアンの椅子に座る葉名は固まっていた。
植物園で葉名たちを待っていたのは、せいぜい、おばさんくらいにしか見えない女性だった。
何処も白髪の老婆ではない。
そりゃそうだよな、と葉名は今になって気がついた。
昔の漫画なんかだと、『おばあちゃん』って、すごい年寄りに描いてあるので、つい、そういうイメージを抱いてしまったのだが。
よく考えたら、准や誠二の祖母がそんなに年老いているはずもなかった。
准の祖母、瑠璃子は品の良い綺麗な人だったが、動きは俊敏にして、眼光鋭く。
如何にもな、やり手の女性だった。
アンティークなブリキの如雨露で、まったりなんてしていない。
そんなイメージとはかけ離れた瑠璃子の姿に衝撃を受けている葉名の前で、瑠璃子は更に衝撃的なことを言ってきた。
「ちょうどいいわ。
貴方たち、今すぐ結婚なさい」
なにがちょうどいいのでしょうか……?
違う宇宙の方が話しているかのように、意味が呑み込めないんですが、と固まる葉名に、瑠璃子は家二軒分くらいはある温室を見回し、言ってきた。
「此処の薔薇は来週辺りが見頃なの。
此処で式をやりたいのなら、貴方たち、今すぐ結婚しなさい」
……人は、そのような理由により、結婚しなければならないものなのでしょうかね?
そんな葉名の表情を見た瑠璃子は、
「あら、どうせ結婚するのなら、早かろうが遅かろうが、一緒でしょ?
それとも、葉名さん。
貴女、この先、時間を置いたら、准と結婚しなくなる可能性でもあるの?」
と声と目つきで攻め寄ってくる。
ひい……。
ゴザイマセン。
ございません以外の返答をすると、この場で薔薇の肥料にされそうな勢いだった。
葉名は、突然、サバンナに放り出された子ウサギのように、目の前のケモノに怯え、ふるふると首を振る。
「そう、よかったわ。
早速、瞳さんにも言っておきましょう」
と瑠璃子は、まったく年寄り向けではない最新のスマホを取り出し、立ち上がる。
「ああ、瞳さん?」
と電話しながら、その場を去っていってしまった。
その後ろ姿を見送りながら、葉名は呟く。
「……社長が誰似なのか、今、はっきりとわかりましたよ」
この合理的で、迷いのないところ、そっくりだ……と思っていた。
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