そこらで勘弁してくださいっ ~お片づけと観葉植物で運気を上げたい、葉名と准の婚約生活~

菱沼あゆ

文字の大きさ
74 / 79
騙されました!

今すぐ結婚しなさい

しおりを挟む


 おばあちゃんとか、グランマとかいう言葉に騙されました……。

 香り高い英国紅茶を前に、白いアイアンの椅子に座る葉名は固まっていた。

 植物園で葉名たちを待っていたのは、せいぜい、おばさんくらいにしか見えない女性だった。

 何処も白髪の老婆ではない。

 そりゃそうだよな、と葉名は今になって気がついた。

 昔の漫画なんかだと、『おばあちゃん』って、すごい年寄りに描いてあるので、つい、そういうイメージを抱いてしまったのだが。

 よく考えたら、准や誠二の祖母がそんなに年老いているはずもなかった。

 准の祖母、瑠璃子るりこは品の良い綺麗な人だったが、動きは俊敏にして、眼光鋭く。

 如何にもな、やり手の女性だった。

 アンティークなブリキの如雨露じょうろで、まったりなんてしていない。

 そんなイメージとはかけ離れた瑠璃子の姿に衝撃を受けている葉名の前で、瑠璃子は更に衝撃的なことを言ってきた。

「ちょうどいいわ。
 貴方たち、今すぐ結婚なさい」

 なにがちょうどいいのでしょうか……?

 違う宇宙のかたが話しているかのように、意味が呑み込めないんですが、と固まる葉名に、瑠璃子は家二軒分くらいはある温室を見回し、言ってきた。

「此処の薔薇は来週辺りが見頃なの。
 此処で式をやりたいのなら、貴方たち、今すぐ結婚しなさい」

 ……人は、そのような理由により、結婚しなければならないものなのでしょうかね?

 そんな葉名の表情を見た瑠璃子は、
「あら、どうせ結婚するのなら、早かろうが遅かろうが、一緒でしょ?

 それとも、葉名さん。

 貴女、この先、時間を置いたら、准と結婚しなくなる可能性でもあるの?」
と声と目つきで攻め寄ってくる。

 ひい……。 
 ゴザイマセン。

 ございません以外の返答をすると、この場で薔薇の肥料にされそうな勢いだった。

 葉名は、突然、サバンナに放り出された子ウサギのように、目の前のケモノに怯え、ふるふると首を振る。

「そう、よかったわ。
 早速、瞳さんにも言っておきましょう」
と瑠璃子は、まったく年寄り向けではない最新のスマホを取り出し、立ち上がる。

「ああ、瞳さん?」
と電話しながら、その場を去っていってしまった。

 その後ろ姿を見送りながら、葉名は呟く。

「……社長が誰似なのか、今、はっきりとわかりましたよ」

 この合理的で、迷いのないところ、そっくりだ……と思っていた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

侯爵様と私 ~上司とあやかしとソロキャンプはじめました~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 仕事でミスした萌子は落ち込み、カンテラを手に祖母の家の裏山をうろついていた。  ついてないときには、更についてないことが起こるもので、何故かあった落とし穴に落下。  意外と深かった穴から出られないでいると、突然現れた上司の田中総司にロープを投げられ、助けられる。 「あ、ありがとうございます」 と言い終わる前に無言で総司は立ち去ってしまい、月曜も知らんぷり。  あれは夢……?  それとも、現実?  毎週山に行かねばならない呪いにかかった男、田中総司と萌子のソロキャンプとヒュッゲな生活。

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

負けヒロインに花束を!

遊馬友仁
キャラ文芸
クラス内で空気的存在を自負する立花宗重(たちばなむねしげ)は、行きつけの喫茶店で、クラス委員の上坂部葉月(かみさかべはづき)が、同じくクラス委員ので彼女の幼なじみでもある久々知大成(くくちたいせい)にフラれている場面を目撃する。 葉月の打ち明け話を聞いた宗重は、後日、彼女と大成、その交際相手である名和立夏(めいわりっか)とのカラオケに参加することになってしまう。 その場で、立夏の思惑を知ってしまった宗重は、葉月に彼女の想いを諦めるな、と助言して、大成との仲を取りもとうと行動しはじめるが・・・。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

ほんとうに、そこらで勘弁してくださいっ ~盗聴器が出てきました……~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 盗聴器が出てきました……。 「そこらで勘弁してください」のその後のお話です。

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

処理中です...