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騙されました!
なにか新しいもの
しおりを挟むその合理的で迷いのない准に連れられ、帰り道、葉名はウエディングドレスを買いに行かされた。
何故、なんの心構えも、そろそろドレスを選びに行くんだー、という待っている間のドキドキもないままに、ドレス……と思いながらも、ずらりと並ぶ素敵なドレスにときめかないはずもなかった。
突然、今日が遠足だ、と言われて、ええっ? と驚きはしたが、やっぱり、楽しい、と言った感じか。
その話をすると、
「俺は遠足、いつもいきなりだったからな」
と准は言う。
そうか。
社長は転校することも多かったからな、と気がついた。
「でも、いいんだ。
転校した途端に遠足とか、楽しいだろ。
今も楽しいぞ。
いきなり、お前と出会って――」
いや、だから、私、貴方の幼なじみですし、最終面接でも入社式でも会ってますからね。
真っ白なドレスを着た葉名は、鏡映る准を横目に見ながら、そう思う。
「いきなり、結婚することになって。
いきなり、来週、式になっても、俺は嬉しい。
待っている間なんていらない。
今すぐお前と結婚したいし。
待ってる間に逃げられたら、嫌だからな」
いや、今更、逃げるとかいう選択肢があると思ってるんですか、と思う葉名に向かい、准は言った。
「誠二が居るからな。
あいつ、絶対、お前に気があるぞ。
あいつのことだから、いきなり、勝利をもたらす観葉植物とか、ご老人への善行とかで運気を上げて、お前に迫ってくるかもしれん」
試着させてくれている店員さんは、最初は真面目な顔で、サイズ調整してくれていたのだが。
この阿呆なカップルの話を聞くまいと思っても、耳に入ってくるらしく、そのうち、笑い出した。
「お幸せですね」
と耳打ちされる。
……アリガトウゴザイマス。
ちょっと恥ずかしくなりながらも、葉名は礼を言った。
准は、まるで大根でも買うかのごとく、葉名が、これがいい、と言ったドレスを値段も見ずに買ってくれた。
いや、私は、大根でも値段見ますけどね……と思う葉名に、准は、
「よし。
これで、『なにか新しいもの』は決まったな」
と言ってくる。
結婚式のとき、身につけると幸せになるサムシングフォーの話を覚えていてくれたようだ。
帰り道、
「……ありがとうございます」
と間の抜けたタイミングで言って、
「なにがだ?」
と言われてしまったのだが。
いやでもほんと、ありがとうございます――。
この人と結婚することにしてよかったな、と改めて思った瞬間だった。
そして、ドレスの次は指輪だが。
結婚指輪は一生するものだから、ゆっくり選ぶことにして、式では、あの呪いの指輪を使うことにした。
あの指輪を見た瑠璃子が、
「あら、それ、私が瞳さんにあげた指輪じゃないの」
と言い出したからだ。
瑠璃子から瞳に。
そして、葉名へと受け継がれるあの指輪は、ひとつで、サムシングオールドとサムシングブルーの役目を兼ねてくれる。
まあ、その指輪が葉名の手に渡った経緯を聞いた瑠璃子が、
「あら、その指輪、蔵にあったの?
……どういうことなのかしら? 瞳さん」
と言いながら、スマホを出してきて、軽く嵐を呼んではいたが――。
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