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この店、最大のピンチですっ
正気かっ!?
しおりを挟む「ところで、喜三郎さんは、なんの習い事をされてるんだ?」
「それが……
いろいろやられてるみたいなんですけど」
と琳が言いかけたとき、
「生け花だよ」
と真剣に、自治会の袋詰め作業をしていたおばさんの一人が顔を上げて言った。
「生け花教室に一番熱心に行ってるらしいよ」
その前に座っているハサミでなにか切っているおばさんが小首をかしげ、
「喜三郎さん、私と同じコーラスグループにも来てるけど。
そっちはちょっと気もそぞろなんだよねー」
と言う。
「……事件の匂いがしますね」
案の定、琳はそんなことを言い出した。
「なんでだ。
喜三郎さんが人生の楽しみを見つけたっていうだけの話だろ?」
「そうなんですけど。
事件の匂いがします」
お前、事件の匂いがしなかったら死ぬのか、という頻度で、こいつは事件を欲している。
こんな危険な奴が喫茶店の店主をやって、多くの人に関わっていていいのか、と思ってしまう。
こういう奴は何処かに閉じ込めるべきだ、と将生は思った。
例えば、新築の素敵なマイホームとか。
愛あふれる家族の中とか。
……でも、こいつの場合、その中でも事件を探してきそうなんだよな。
自分と琳と子どもたち。
明るい庭の見えるダイニングキッチンにエプロン姿の琳。
琳は食事の載ったトレーを手に子どもたちに向かって言うのだ。
「みんなー、事件の匂いがするわよー」
そこは『ご飯ができたわよー』だろっ、と妄想の中の琳に突っ込んだとき、琳がおばさんたちに訊いた。
「今日は喜三郎さんは?」
「コミュニティセンターに行ってるよ。
今日は陶芸かな」
「そうですか」
「気になるのなら、行ってきなよ、琳ちゃん。
幸い、今、客もいないし」
とおばちゃんたちは笑う。
待ってください。
あなたがたとか、我々とかいるんですけど。
もはや、その辺は客のくくりに入っていないらしい、と将生は思った。
「俺も行こう、雨宮。
……………………
……事件の匂いがするから」
とそんなこと思ってもいないのに言ってみた。
「あ、じゃあ、僕が留守番してますよ」
ニコニコしながら、水宗が言う。
いや、あなたは仕事の途中で立ち寄ったのでは?
と思う将生の前で、琳がおばちゃんたちに言う。
「そうですねー。
どんな状況なのか、拝見してきた方がいいですよねー。
喜三郎さんがいないと、この店困りますもんね」
では、行ってきますっ、とシックな柄のエプロンをいそいそと外す琳を見ながら思う。
いや、この店に、喜三郎さんがいないのは困るのに。
店主のお前がいないのはいいのか。
だが、琳と二人でコミニュティセンターまで散歩するのは悪くないな、と思い。
余計なツッコミは入れずに、琳について店を出た。
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