ここは猫町3番地の5 ~不穏な習い事~

菱沼あゆ

文字の大きさ
3 / 22
この店、最大のピンチですっ

事件の匂いがするのなら、あなたとともに何処までも――

しおりを挟む
 
「いいお天気ですね」

 琳は将生と並び、すぐ近くのコミュニティセンターまで歩く。

 まだピカピカの自動販売機、猫町4番地を眺めながら、
「喜三郎さん、どうして急に、片っ端からサークルに入ってみようと思ったんですかね?」
と琳は呟く。

「そうだな。
 なんでだろうな」

 そう呟く将生はいつも通りのようにも見えたが。

 なにかいつもと違うようにも見えた。

 将生は、ちょっとデートのようだ、と思い、緊張していたのだが、琳にはまったく伝わってはいなかった。

「ここがコミュニティセンターか。
 思ったより、近いな」

 将生は中にはまだ入らず、ロータリーで足を止め、敷地内全体を眺めている。

 ……事件現場に来て状況を確認しているかのようだ、と琳は苦笑したあとで言った。

「そうなんですよ。
 だから、コミュニティーセンターの帰りに寄ってくださる方も結構いるんですけどね」

 シンプルな色合いの猫町3番地の庭とは対照的な、鮮やかな色の花々が植えられていいる花壇のせいか。

 新しく塗り直されたコミュニティーセンターの白い壁のせいか。

 ぱあっと明るい雰囲気だった。

 春になったから、習い事をはじめてみようっ、と思って、ここに通い始めるというのもわかるな、と琳は納得しかける。

 ホールの中に入ると、少しひんやりしていた。

 壁の消防署のポスター横に、いろんな教室の一覧表がある。

「各曜日、いろいろありますね。
 月曜はコーラス、フラダンス、お習字、囲碁。
 火曜はヨガ、木工、生け花、将棋、社交ダンス……」

 なんか楽しそうですね、と呟いて、

「お前もやるのか?」
と将生に訊かれる。

「いえ、お店があるので」

 いや、今も店開けたまま来てしまっているのだが……。

「あ、今、カラオケもやってますね」

 そういえば、何処からか、演歌が聞こえてくる。

「喜三郎さんは陶芸だったか」

 そうなんですよね……と言いながら、琳は小首をかしげる。

「そういえば、俺の知り合いも退職後、暇になって、いろいろやってみてたな」
と呟いた将生が、

「とりあえず、陶芸の教室を覗いてみよう」
と言った。

「お邪魔してもあれなんで、窓からそっと覗いてみましょうか?」

 陶芸の教室が何処か確かめ、琳は花壇越しに窓から喜三郎の様子を窺った。

 喜三郎は、珈琲を淹れるときと同じ几帳面さでろくろをまわしている。

 微笑ましく眺めたあとで、
「行きましょうか」
と将生に声をかけた。

 もう一度、中に入り、各教室のチラシをもらう。

 歩いて前庭に出ながら、それを眺めていると、
「なにか気になるのか?」
と将生が声をかけてきた。

 はあ、まあ、ちょっと……と言いながら、琳は白い二階建ての建物を振り返る。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

処理中です...