ここは猫町3番地の5 ~不穏な習い事~

菱沼あゆ

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不審な人物が現れました

そんな人たちが集う場所

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 雑木林を最初に来た道と繋がっている方角に抜けたご隠居、末太郎は、また、見知った顔に出会った。

 いつもフードのついたパーカーを着ている可愛らしい少年のような顔をした男だ。

 ランニングでもしているのか、目の前を駆け抜けようとしたので呼びかける。

「小僧。
 探偵の小僧」

 足を止めた小村真守こむら まもるが振り返る。
 こちらを見て、驚いたような顔をした。

「ご隠居じゃないですか」
「なにしてるんだ、こんなところで」
と訊くと、

「ランニングですよ。
 体力づくりに。

 良い探偵の基本です」
とあどけなくも見える顔で笑う。

「あ、でも、僕の師匠はあんまり体力なさそうなんですけどね」

「師匠?
 ああ、通っているとかいう探偵養成学校とかいう胡散臭いとこのか」

「別に胡散臭くないですよ」

 普通の専門学校と変わりないです、と真守は言った。

 最近はなんでも養成学校とか、専門学校とかあるんだな。
 そのうち、日本にも、スパイ養成学校とかできるんじゃないだろうか。

 外国みたいに、と末太郎は思う。

「でも、僕の師匠は、養成学校の先生じゃなくて。
 そこの喫茶店の店長ですけどね」
と真守はあの森の中のような喫茶店を指差す。

「まさか、雨宮店長か。
 ……お前までこの店に出入りしてるとは」
ともらすと、

「あれ?
 ご隠居、雨宮さんご存じなんですか?

 美人好きですからね~、ご隠居」
と真守は笑う。

「お前、ここによく通っているのか?」

「はい。
 雨宮さんに探偵指南を受けにと、喜三郎さんの珈琲を飲みに」

 喜三郎? と末太郎は渋い顔をする。

「あ、喜三郎さんもご存じなんですね。
 今、飲んでこられたんですか? 喜三郎さんの珈琲」

「……飲んだな」

 ずいぶん昔に、と末太郎は遠くを見ながら呟いた。

「おい、小僧。

 余計なことをあの店で言うなよ。
 雨宮店長にも、喜三郎にも」

 はいはい、わかりましたよー、と軽い口調で言い、自称 探偵の小村真守は行ってしまう。

 友人に、
「うちの孫が探偵になりたいと言うんだが。
 なにかいい仕事はないだろうか」
と言われ、一、二度使ったことがあるのだが。

 なんの推理もできないが、よく動ける男なので。
 雑用を頼んだりするようになっていた。

「おい、探偵の小僧」
と呼びかけると、すごく嬉しそうにやってくる。

 例え、頼まれるのが雑用だとわかっていても、誰かに探偵と呼ばれたいようだ。

 末太郎は木々の向こうを見た。
 木造の店の屋根あたりが窺える。

「変わった店だな。
 面白い連中の溜まり場のようだ。

 ……あの小僧に用事を頼もうと思っていたが。

 話が筒抜けになりそうだから、やめとくか」

 そう判断した末太郎は正しかった。




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