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どうやら、スパイのさがのようです
魔女のスープ
しおりを挟む「どうやら、社長をこてっと寝かそうとしているようですよ」
仕事の報告が済んだあと、西和田が去らないな、と奏汰が思っていると、彼は、急にそんなことを言い出した。
ふうん、と言いながら、何故、お前、つぐみの様子を俺にチクる……と思っていた。
スパイ癖か?
自分ではなにも疑問に思っていないようで、では、と去ろうとする西和田を呼び止めた。
「待て、西和田」
はい? と振り向いた西和田に、さっき外に出たとき、たまたまエレベーターで一緒になった掃除のおばちゃんがくれた飴を投げてやる。
「お駄賃だ」
これでっ? という顔で西和田は、こちらを見た。
なにがお駄賃だ、と思いながら、西和田は淡い黄色の小さな袋に入った飴を眺めながら、廊下を歩いていた。
すると、会議室のお茶を片付けている途中らしいつぐみに出くわす。
「ほれ」
よろよろとつぐみが運んでいる大きなお盆に社長がくれたレモンの飴をカン、と投げ入れると、
「おっ、お疲れ様です」
とつぐみが顔を上げた。
「あんたの旦那はわからんな」
と言っていこうとすると、
「西和田さん」
と呼びかけられた。
「そういえば、専務に、私たちのこと、ご報告なさいました?」
と訊かれる。
……そういえば、言ってないな。
なんでだろうな、と思いながら、西和田は、いや、と言う。
「まだ別れるかもしれんだろ」
と言って歩き出し、後ろ向きのまま、つぐみに手を振った。
……魔女が怪しいスープを作っているようだ。
奏汰が家に帰ると、つぐみはキッチンに立ち、せっせと夕食を作っていた。
鍋でコトコト、スープを煮ているようなのだが、とろみがあるのか、焦げつかないよう、ひっきりなしにかき混ぜている。
勝手に撹拌してくれる鍋でも買ったらどうだ、と思いながら、背後から見ていると、しばらくして気づいたらしく、つぐみは、うわっ、とマヌケな声を上げていた。
「なにが出来るんだ?」
と訊くと、つぐみは勝ち誇ったように笑って言う。
「スープですっ」
いや……見ればわかる。
近くに行くと、いい匂いのする湯気が顔にかかる。
「まだ寒いので、温かいスープを飲むと、眠くなるかと思いましてっ」
と笑顔で言ったあとで、一瞬、黙り、
「……お疲れのようなので」
と付け足していた。
なるほど。
西和田が言うように、俺を寝かしつけようとしているらしいな、と思う。
まさか、自分が襲われないようにとか?
莫迦なのか?
「ニンニクとかニラとか生姜とか入れると、身体が温まるらしいですよ」
と笑顔で広げたレシピ本を見ながら言うつぐみに、横からそれを見て、
「滋養強壮にもいいようだがな」
と言うと、強壮!? とつぐみは見直している。
莫迦か、と笑いながら、
「じゃあ、ちょうどスープが出来上がったようだから、今日は先に食事にしようか」
と手を洗いに、キッチンを出ながら言った。
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