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社長、横恋慕かもしれません
江戸の屋台から頭離れてないな……
しおりを挟む奏汰が家に帰ると、つぐみは猫の子のように、毛糸と戯れていた。
「なにをしている……」
「あっ、おっ、お帰りなさい」
とつぐみは一拍置いて、振り返り言う。
「すみません。
絡まっちゃって」
とぐるぐる巻きになった毛糸を手に苦笑いしていた。
奏汰は溜息をつき、
「わかった。俺が解いておくから、夕食の用意をしろ」
と言う。
「ありがとうございますっ。
今日はお寿司と天ぷらですっ」
寿司と天ぷら?
江戸の屋台か、と思ったあとで気づいた。
「……お前、まだ、江戸から頭が離れてないな」
と言うと、ははは、と笑ったつぐみは、
「バレましたか」
と言う。
毛糸を解いて、ついでに編み図を見ながら編んでいると、つぐみが、ああっ、とそれに気づいて、キッチンから文句を言ってくる。
「私が編むんですーっ」
「うるさいっ。
お前、また間違えてるじゃないかっ」
お前が間違えてたところまで直しておいてやる、と言うと、側に来たつぐみは取り返そうとしながら、
「奏汰さん、もしかして、編むの楽しいんじゃないですかっ?」
と言い出した。
「そんなことはない」
っていうか、不用意に触ってくるなっ、二人きりなのにっ、と思ったが、相変わらず、つぐみは、ぎゃあぎゃあ言っていて、こちらが動揺していることにも気づかなかったようだった。
夕食には、今の寿司よりも遥かに大きな江戸前の寿司が出て来た。
ちゃんとつけあわせに、蓼や酢生姜、しきりに熊笹の葉までついている。
俺は江戸の民が好まなかったトロも好きだぞ……と海老やコハダや玉子の並んだ寿司を見る。
「いい加減、普通のご飯で頼む」
と言ったが、そのうち、天ぷらも揚がってきて、結構美味しかった。
カウンターで揚げたての天ぷら。
悪くない。
だが、そのうち、家の中に屋台を作り出したら困る。
図書館に行って、普通に男が好みそうなメニューの特集をリクエストして来よう、と思いながらも、美味しくいただいた。
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