眠らせ森の恋

菱沼あゆ

文字の大きさ
上 下
47 / 58
社長、横恋慕かもしれません

江戸の屋台から頭離れてないな……

しおりを挟む
 

 奏汰が家に帰ると、つぐみは猫の子のように、毛糸と戯れていた。

「なにをしている……」

「あっ、おっ、お帰りなさい」
とつぐみは一拍置いて、振り返り言う。

「すみません。
 絡まっちゃって」
とぐるぐる巻きになった毛糸を手に苦笑いしていた。

 奏汰は溜息をつき、
「わかった。俺が解いておくから、夕食の用意をしろ」
と言う。

「ありがとうございますっ。
 今日はお寿司と天ぷらですっ」

 寿司と天ぷら?

 江戸の屋台か、と思ったあとで気づいた。

「……お前、まだ、江戸から頭が離れてないな」
と言うと、ははは、と笑ったつぐみは、

「バレましたか」
と言う。

 毛糸を解いて、ついでに編み図を見ながら編んでいると、つぐみが、ああっ、とそれに気づいて、キッチンから文句を言ってくる。

「私が編むんですーっ」

「うるさいっ。
 お前、また間違えてるじゃないかっ」

 お前が間違えてたところまで直しておいてやる、と言うと、側に来たつぐみは取り返そうとしながら、

「奏汰さん、もしかして、編むの楽しいんじゃないですかっ?」
と言い出した。

「そんなことはない」

 っていうか、不用意に触ってくるなっ、二人きりなのにっ、と思ったが、相変わらず、つぐみは、ぎゃあぎゃあ言っていて、こちらが動揺していることにも気づかなかったようだった。

 夕食には、今の寿司よりも遥かに大きな江戸前の寿司が出て来た。

 ちゃんとつけあわせに、たでや酢生姜、しきりに熊笹の葉までついている。

 俺は江戸の民が好まなかったトロも好きだぞ……と海老やコハダや玉子の並んだ寿司を見る。

「いい加減、普通のご飯で頼む」
と言ったが、そのうち、天ぷらも揚がってきて、結構美味しかった。

 カウンターで揚げたての天ぷら。

 悪くない。

 だが、そのうち、家の中に屋台を作り出したら困る。

 図書館に行って、普通に男が好みそうなメニューの特集をリクエストして来よう、と思いながらも、美味しくいただいた。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

音消

ミステリー / 連載中 24h.ポイント:255pt お気に入り:0

継母の心得

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:69,318pt お気に入り:23,372

アマテラスの力を継ぐ者【第一記】

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:255pt お気に入り:6

露雫流魂-ルーナーリィウフン-

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:56pt お気に入り:0

学校の人気者は陰キャくんが大好き 

BL / 連載中 24h.ポイント:369pt お気に入り:26

処理中です...