左左左右右左左  ~いらないモノ、売ります~

菱沼あゆ

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13日の金曜日

商売上がったりだよっ

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「……たしかにいらないですね」

 その消しゴムを見つめ、菜乃は言う。

 べつに恋をはじめたいとか思っていなかったからだ。

「お前、乙女心がないな」

 自分でいらないものだと言っておきながら。

 実際にいらないと言うと、ケチをつけてくる。

「なんか怖いモノとか売ってるのかと思ってました」
となにもない棚を見つめ、菜乃が言うと、

「まあ、そういうのも扱ってるんだが。
 近頃はここより怖いモノを普通に売ってるからな」
とヒョウは言う。

 見ろ、とヒョウは最新型のスマホを出してきた。

「……スマホ使ってるんですか?」

 その問いかけには答えず、ヒョウは叫ぶ。

「『呪いの人形』とかフリマアプリで売ってるんだぞ!?
 商売上がったりだっ」

「呪いなんてあるんですかね~」

 スマホの画面に映し出された古い西洋の人形を見ながら、菜乃は疑わしげにそう呟いた。

「だって、確実に呪われるって、ここに書いてあるぞっ」

 画面を指差し、ヒョウは言う。

 ――確実に呪われる。

 そんなことってあるのだろうか。

 呪いの人形との相性(?)だってあるだろうし。

「あ」
と菜乃は手を打った。

「さては、宝の地図とか。
 おじいさんの遺産のありかとかが入ってるんですよ。

 確実に呪われますよ、それを狙ってる人たちに」

「……おまえ、意外に現実主義者で面白くないな。
 まあ、本気でいろいろ怖がるようなやつは、ここまで下りてこないか」

 ヒョウは妙に納得したようにそう言った。

 古い紙に筆でなにやら書きつける。

「それにしても、ここに下りてきて、この店を見つけたやつは久しぶりだ。
 礼にタダでお前にいいモノをやろう」

 いや、この店、いらないモノしかなかったのでは?
と思う菜乃にその古いワラ半紙のようなものを渡し、ヒョウは言う。

「この通りに歩いてみろ」

 紙には、
「左、左、左、右、右、左、左」
と書かれていた。

「……はあ」

 菜乃はその紙を見ながら、ありがとうございます、と頭を下げた。

 とりあえず、言われた通り、歩いてみる。

 店から左に行くと、長く暗い廊下がある。

 ときどき蛍光灯がまたたくので、なんとか先が見えた。

 そのまま突き当たる。

「……左」
と呟き、左を見ると、上にのぼる階段がある。

 階段をのぼり、踊り場で、また左に曲がる。

 一階についたが、なぜか真っ暗で、また蛍光灯がまたたいていた。

 あれ~?
 もう夜になっちゃったのかな?

 雨は降ってはいたけど、まだ明るかったのに。

 そう思いながら、菜乃は廊下を直進すると、右に曲がり、階段を下りた。

 踊り場を左に曲がり、さらに左に曲がって廊下に出る。

 そこは、さっきの場所だった。

「一周してきただけじゃん」

 そう呟いたが、青白い光に時折照らし出される白い壁のところに購買部はなく。

 壁のど真ん中になにかが貼ってあった。

 お札だ。

 なにかの雑誌の付録を雑に切り取ったもののようだ。

 涼太が言っていたお札だろう。

 菜乃は、それをペリッとはがして、上に上がる。

 もう雨は上がっていて、一階は夕陽に照らし出されていた。

 暗いところから上がってきたので、より一層眩しく感じる。

 部活のかけ声で騒がしいグラウンドを通り、新校舎に戻った。

 教室の扉は開いたままで、みんなの話し声がしている。

 どうやら、すでに次の勝負をしていたようだ。

「おっ、菜乃、お札とってきたのか」

 机の上に腰かけていた涼太が菜乃の手にあるお札を見て笑う。

「菜乃ー。
 ヒミツの購買部、あったー?」
と仲のいいスミ子が笑ってきいてくる。

 小柄でキノコのようなふわっとしたショートヘアをしている可愛い子だ。

「あったよー」
と菜乃は答えたが、

「だよねー」
とカードを切りながらスミ子は笑って言う。

 ――だよね?

 あっさりそう言うスミ子を不思議に思ったが。

 どうやら、
『ヒミツの購買部、あったー?』
という問いかけの答えは、

『なかったよー』
で決まっている、とスミ子は思っていたようだ。

 こちらの返事をちゃんと聞かずに相槌あいずちを打っただけのようだった。

「あー、負けた負けたっ」
と涼太が机にカードを置く。

「今度は俺がダッシュで下りてくるぜ」
と行こうとするので、菜乃は、

「涼太、誕生日いつだったっけ?」
ときいてみた。

「えっ?
 祝ってくれんの?

 でも、惜しいな。
 もう終わったよ、五月だから。

 って言うか、おまえ、俺の誕生日、知らねえの?」

「いいから、早く行けよー、涼太ー」

「菜乃ー、代わりに入れー。
 もちろん、お前、大貧民な」
と言うみんなに、またトランプの輪に引き込まれた。

 そうか。
 涼太は15か。

 じゃあ、きっと、あの購買部、見ることはないな。

 配られたカードを見ながら、菜乃は思う。



 しとしとと雨の降る月曜日。

 菜乃は頼まれもしないのに、地下に下りてみた。

 蛍光灯は一発で明るくついた。

 白い壁は真っ白で、あの購買部は何処にもない。

 ――いつでもいるって言ったのに、嘘つきだなあ。

 なにもないのに下りてみた自分がマヌケみたいで。

 菜乃は、あのとき、
「あ、それ、もういらねえからやるよ」
と涼太がくれたあのお札を購買部があった位置に貼ってみた。

「左、左、左、右、右、左、左」

 あの紙に書いてあった通り一周した菜乃はもう一度下りてくる。

 青白くまたたく蛍光灯の下、カウンターに頬杖ついて、だるそうに座っている男がいた。

「いらっしゃい」
とヒョウがこちらを見て言った。

 まるで来ることがわかっていたかのように。

「今度こそ、なにか買いなよ」

 そう言って、ヒョウは、にやりと笑う。

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