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暗闇の中で灯る希望の光

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「じーちゃん……オレに力を貸してくれ……」


 ナツメの声に呼応するように、数珠は再び眩い光を放つ。


「ナツメちゃん?」


 異変に気付いたヒイラギが声をかけるも、ナツメは数珠を握り締め反応を示さない。
 光に気付いた九尾隊のメンバーも、何事かと目を凝らしナツメを見つめた。


「ナツメ殿……?」


 サイカはナツメから温かく不思議な力を感じ、希望に縋るような声でナツメを呼ぶ。ナツメはその声に反応し、ニコッと笑みを浮かべた。


「オレが助けに行く」

「!?」


 狐達は、ナツメの言葉に目を見開く。


「オレ、多分瘴気の影響そんなに無いしさ。あの中入ってアサヒのこと引きずってでも連れ戻してやるよ!」


 ナツメは意を決した声でそう言い放ち、狐達を安心させるように満面の笑みを浮かべた。
 大丈夫、大丈夫と必死に自分に言い聞かせて笑ってみせるナツメの健気さを感じ取った狐達は、目を細め心配そうに顔を歪める。


「んなこと言ったって、震えてるじゃねーかお前。本当に出来るのか……?死んじまったらどうする」


 シュラがそう問いかけると、ナツメはあっけらかんとした表情で口を開く。


「そうなったらそれまでだな。オレ弱っちぃ人間だし、そこまでだったってことで」


「おまっ……そんな博打みてぇなこと!」


 シュラは顔を歪める。


「でも!」


 ナツメが大声をあげると、シュラはビクッと驚きを示す。


「たとえ死んでも、ダイダラボッチをどうにかしてアサヒは助ける!それは約束する!」


 不思議と自身に湧き上がってくる未知の力に自信を感じたナツメは、ハッキリとそう言ってシュラを見つめた。シュラはナツメの覚悟と真っ直ぐな瞳に気圧され、それ以上は何も言い返さず目を見開いてナツメを見つめた。


「じゃがナツメ殿……わっちはナツメ殿も心配じゃ!もし死んでしまったら悲しむ家族がおるじゃろ?」


 サイカの問いかけに、ナツメは切なげに笑みを浮かべる。


「オレ、元いた世界に家族はもういないんだ。だから、オレが死んでも誰も悲しまない」


 ナツメの返事に、一同は哀れみの表情を浮かべる。


「だから行かせてくれ。もうそれに賭けるしかないって分かってるだろ?シキ、クレナイ」


 シキとクレナイは目を細め真っ直ぐとナツメを見つめた。


「……死ぬことは許さないさね、ナツメ」

「ダメだと思ったら逃げるんだよ」


 二人は優しさを込めた声色でそう言いながらナツメに近付き、クレナイがすりすりと頬擦りする。
 ナツメは笑顔を浮かべ、「分かった」と小さく返事をしてクレナイの赤い毛並みをトントンと撫でた。


「ヒイラギ様、オレをあの球体の近くに連れてって。あまり近付いたら危ないから、上の方に。そっから飛び降りる」

「…………分かった」


 ヒイラギは黒い球体の上を目指し、浮上していく。


「ナツメ殿ぉぉー!!!絶対に戻ってくるんじゃぞぉー!!!」

「ナツメ!テメェだけ死にやがったら許さねぇ!」


 サイカとシュラの言葉を背に受け、ナツメは振り返って手を振る。



「ここら辺でいいよ、ヒイラギ様」


 球体の上に着いたヒイラギは、その場に留まった。


「ホンマに危ない思ったら、逃げるんやでナツメちゃん」

「…………うん。ありがとヒイラギ様」


 ナツメは儚げに笑みを浮かべ、ヒイラギの背に立って黒い球体のに向かって飛んで降下した。


「……行ってしもた」


 ヒイラギはそれを見送り、クレナイ達の元へ戻っていく。まるでお通夜のような雰囲気の九尾隊達に、かける言葉も見つからずただ球体を見守るしかなかった。

 徐々に黒い球体に近付くと、球体はナツメを取り込もうと変形しナツメを絡め取る。


「待ってろよアサヒ」


 ナツメは球体に飲まれ、闇の中へと入っていった。





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 広い闇の中を歩くナツメ。
 自身が青白く光っているが、それが何かを照らすこともなくひたすら闇が広がっていた。


「どこだアサヒ!」


 外から球体を見たが、ここまでの面積があったか?と首を傾げるナツメ。
 まるで別世界かのように闇が広がる空間に、ナツメは数珠を強く握り締めて不安を抑え込んだ。

 すると、数珠が動き、右の方へと引っ張られたナツメはその通りに走った。


「ぉわ!?」


 何かに躓いたナツメはその場に転ぶも、感じたことのあるツヤツヤとした感触に気付く。


「アサヒ……!」


 闇の中で横たわるアサヒ。ナツメが触れたことで、全身が青白く光ってアサヒを目視することが出来たナツメは、アサヒの顔の方へ移動した。


「アサヒ、おい、起きろ!寝てる場合じゃねぇぞ!」


 黒い瘴気に覆われ、液体がドンドンとアサヒの中に入っていく。アサヒはうっすらと目を開けてナツメを確認した。その瞳は金色から濁った黒に変化しかけており、ナツメは目を見開く。


「……おま、え……なんで、ここに」


 アサヒは息も絶え絶えな様子でナツメに声をかけるも、動くことができない様子でただ息を上げていた。


「助けに来たに決まってるだろ!」


 助けるのは当たり前だと言わんばかりの表情でそう叫ぶナツメに、アサヒは一瞬ピクッと目を開いた。


「……ニンゲンに何が出来んだ。オレはもう……この身体を制御できない。九尾隊には申し訳ないが……民を連れて別の地に、はや、く……逃げろと伝えろ……」


 アサヒは力無くそう告げ、何とか言葉を絞り出す。

 薄れていくアサヒの妖力。
 ナツメは数珠を握り締めて下唇を噛むと、アサヒを睨むように見つめた。


「なんでっ……!」


 ナツメは必死な形相で大声を上げる。
 アサヒは反応を示さず、諦めたように瞳を閉じた。


「何で諦めるんだよ!九尾かなんか知らねーけど、お前凄い奴なんだろ!?九尾隊のてっぺんなんだろ!?……みんなお前を失ったら悲しむの、分かってんのか……!」



 ナツメの必死な訴えに、未だ残る心が震えたアサヒは、うっすらと目を開ける。

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