235 / 321
一年生・秋の章<それぞれの一週間>
ルイの悩み②
しおりを挟む「ルイくん、こんなんで大丈夫かなぁ?変じゃない?」
フィンは自身の格好を見せるようにくるりと一周し、首を傾げて不安げに問いかけるが、ルイは顔を赤らめ眉を顰めて目を逸らす。
「セオ……やりすぎだぞ!」
遠くで手を振るセオドアを睨むルイは、小声で文句を言うもセオドアは聞こえていないためヘラヘラと笑った。
「ルイくん……?やっぱりおかしい?」
フィンは目を潤ませ再度問いかけると、ルイは軽くため息を吐き自身の頭をわしゃわしゃと掻いてからフィンを見下ろす。
「いや……女装は完璧すぎるぐらい完璧だ」
「本当!?良かったー」
安堵の笑みを浮かべるフィン。口元のピンクのリップが綺麗に発色し、柔らかな雰囲気の中にもはっきりと女性を思わせるような色っぽさが弾け、頬に乗ったほんのりと滲む淡いピンクのチークが愛らしさを強調している。
ルイはメイクひとつでここまで変わるのかと動揺しつつ、相手の肩をポンっと叩いた。
「悪いな、変なことに巻き込んで。とっとと終わらせに行くぞ」
「うん!!よし、頑張るぞっ」
二人は王城に続く門を目指しながら歩き始めた。
「ものの数分でいい、お前は”ミシュリー“という女性に扮して、リュシエンヌっていうふざけたメイド長の前で俺と”恋人っぽい会話“をしてくれ。数分間俺たちは完璧に恋人ごっこをする。分かったな?」
「うん!任せて、台本はちゃんと覚えてきたからねっ?」
フィンは頷きながら満面の笑みを見せると、ルイは顔を赤らめグッと心臓を抑える。
「(落ち着け、相手はおとぼけド天然のフィンが女装してるだけだ。変に緊張するな。これを成功させれば俺の心の安寧が訪れる)」
ルイは大きく息を吐き、フィンを連れて王城へ入っていった。
--------------------------------------------------
「ここから先が俺が寄宿している城のエリアだ。門兵に俺が女性と来ていると認識されているから、リュシエンヌもその情報をいち早く聞いて、この扉の先で待っているはずだ」
ルイの言葉に、フィンはゴクリと唾を飲んで頷いた。
「鳴らすぞ」
扉前のベルを鳴らすと内側から扉が開く。
そこには縦ロールの巻髪をツインテールにしたリュシエンヌが真顔で立って待ち構えていた。
「お帰りなさいませルイ様」
リュシエンヌは深々と頭を下げ出迎えると、フィンの方に視線を向ける。
「お客さまでしょうか」
リュシエンヌがルイに問いかけると、ルイは演技を始めた。とびっきり優しい笑みを浮かべてフィンを見下ろし、肩を少し強めに抱き寄せる。
「ああ。俺の恋人のミシュリーだ」
「っ!!!」
リュシエンヌは驚愕の表情を浮かべ、歯を食いしばってあからさまに悔しそうな表情を浮かべた。
フィンは台本通りに口を開く。
「初めまして、ミシュリーです。ルイ様とお付き合いさせて頂いてます」
フィンはドレスの下部分を持ちふわっと軽く持ち上げて挨拶をする。
「ミシュリー、俺の部屋に行こう」
ルイは優しい声色でそう提案すると、フィンはもじもじとしながら顔を赤くする。
「そんな……もう、ですか?ルイ様ったら、私昨日もたくさん愛してもらったのに、今日も愛してもらえるなんて幸せすぎて死んじゃいそうです」
フィンは両頬を抑え照れながらルイを見上げた。
フィンの演技力がとてつもない破壊力を持っていることに気付いたルイだが、それよりも気になることがあり、ルイは一瞬眉を顰める。
「(おいおい、台本と違うセリフだぞ……?でもコイツがセリフ覚え間違える訳がないし、アドリブするタイプでもない。つーことは)」
脳裏によぎるセオドアの悪戯めいた笑み。
「(アイツ!セリフ変えてフィンに叩き込んだな馬鹿野郎!あとで殺す!)」
ルイは表情を変えず内心苛つきながらもフィンの台本に合わせて演技を続けた。
「本当は毎日愛したいぐらいなんだ、足りないよ」
「私も、本当は四六時中ルイ様と一緒に居たい……大好きですっ」
「俺の方が大好きだ(セオ、アイツ俺の返し方のパターンでセリフをいくつか用意して覚えさせてやがるな)」
ルイはニコッと優しく笑みを浮かべると、フィンの金髪ヴィッグを一房掴んで匂いを嗅ぐ仕草をし、チラリとリュシエンヌを見る。
「っ(ルイ様があんな優しそうに笑うなんて……!それにこの女、こんな美少女がいたら少しは噂になるはずなのに。ルイ様は一体どこでこんな子を見つけてきたのかしら)」
リュシエンヌはぷるぷると震え悔しそうな表情をしていたため、ルイはニヤッと口角を上げた。
リュシエンヌは小さく口を開く。
「この城……中庭がとても綺麗で……まずはそこでお茶をするのはいかがでしょうか。せっかく王城に来ていただいたのですし、庭師が育てた自慢の花達を見ながらお菓子と紅茶でも」
リュシエンヌは作り笑顔を必死に作ってそう提案すると、ルイは少し悩んだ後頷く。
「(フィンに毒でも盛るつもりか?)……良いだろう。アレクシ、お前がお菓子と紅茶を用意しろ」
作戦を知っているアレクシは落ち着いた表情で頷くと、用意するために一度その場から離れ、二人はリュシエンヌの案内で中庭を目指す。
「ルイ様、王城でお茶ができるなんて私夢みたいっ」
本来なら部屋に行って終了するはずだったが、ここから先は台本に無い行動のためアドリブで会話をするしか無い。
フィンは少し困りつつも抜群の演技を続けた。
「実は、俺は中庭に行ったことがなくてな。でもお前は花が好きだろう?」
「はい!大好きです!嬉しいっ」
「どちらのお嬢様か存じ上げませんが、ミシュリー様の城には中庭はないのですか?」
振り返ることなく問いかけるリュシエンヌ。
何気ない質問だが、少し棘があり、フィンが何者かを探っている様子だった。
ミシュリーという人物の設定は考えてあるため、フィンは怖気付くことなく答え始める。
165
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】
晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。
発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。
そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。
第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい
夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが……
◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。
◆お友達の花々緒(https://x.com/cacaotic)さんが、表紙絵描いて下さりました。可愛いニャリスと、悩ましげなラクロア様。
◆これもいつか続きを書きたいです、猫の日にちょっとだけ続きを書いたのだけど、また直して投稿します。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる