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一年生・秋の章<それぞれの一週間>
ルイの悩み①
しおりを挟む「(また、か)」
王城に寄宿するルイは、とあることに悩まされていた。
王城内を移動する時に時々感じる視線。それは突き刺すような、そして甘ったるい何か。
違和感の正体は、メイド服を着た者から放たれていた。
「(メイド長のリュシエンヌ……一体俺に何の用だ?日を追うごとに視線を感じる)」
それは、王城に寄宿し始めた日に遡る。
南部の大貴族リシャール侯爵家の嫡子が寄宿するということで王城はその噂で持ちきりになり、迎えた当日は多くの召使い達がルイを出迎えた。
その中でも、ルイが寄宿するエリアのメイド長をしているリュシエンヌは、当初から熱い視線をルイに送っていた。
「(ルイ・リシャール様……黒髪で光が当たると少しオレンジに見える髪色。そして燃えるように赤い瞳、あらゆる才能を引き継いだ天才。リシャール侯爵家の特徴を全て網羅している」
リュシエンヌは、ルイの前に出るとぺこりと頭を下げる。
「メイド長のリュシエンヌです。何なりとお申し付けください」
「ご丁寧にありがとうございます。こちらも信頼する執事を連れてきているからあまり用はないと思いますが、よろしくお願いします」
ルイは形式的に挨拶すると、自分が連れてきた執事と共に部屋へと移動していった。
思えばこの日から、徐々にリュシエンヌの行動がエスカレートしていたと思う。
「おいリュシエンヌ。これはお前の仕業か」
ルイは枕元に置かれていたアロマオイルを指差す。
「はいルイ様。よく眠れる香りです」
「調べさせたら媚薬だったが」
ルイの指摘を受けたリュシエンヌは少し目を見開いた後、ツインテールを揺らしながらうっとりとした表情をする。
「あらまぁ。それは失礼しました。色が似ているものですから(だから私があの夜訪ねても追い払われた訳ですね)」
「……」
リュシエンヌがただのメイドであれば交代を命じたが、どうやらリュシエンヌは王族に代々使える家柄であり、いくらルイの方が立場が上だとしても王族の所有物のため好き勝手が出来ない。それに、表面上は非常に有能なメイドで、家柄も関係はあるが若くしてメイド長になる実力を持つ存在。
おそらくアレクサンダーに言えば快く代えてはくれるのだろうが、ルイの性格上、寄宿している身としてこのぐらいは耐えようと思っていた。
しかし、その態度がリュシエンヌをつけ上がらせているのも事実。最近では隙があればルイに近づこうとするばかりでなく、食事に媚薬を混ぜられたりすることもありルイは我慢の限界を迎えた。
角が立たぬよう体良く彼女を追い出す方法はないかと執事のアレクシに尋ねると、アレクシは一瞬悩みながらも口を開いた。
「リュシエンヌ様はルイ様を相当好きだと思います。ですから、その恋心を諦めさせるしかないかと」
「例えば?」
ルイは不機嫌そうに尋ねる。
「別のリュシエンヌ様が好みそうな男性を用意するか、あるいは、ルイ様が好きな方をここにお呼びしてわざとそれを見せつけるとか……」
「あの女が好みそうな男が分からないから前者は無しだ。後者は……俺に恋人を作れってことか?」
「まあ、恋人っぽく振る舞うという手もあります」
アレクシはピンっと指を立てて楽しそうに笑みを浮かべると、ルイは意外にも否定せず宙を眺めた。
「なるほど。架空の人物を作り上げれば相手役にも災難は降り注がないか」
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「ってことで、協力してくんねーか」
フィンとセオドアとカフェで団欒していたルイは、悩みを打ち明け協力を要請した。
「えーっと、つまり、フィンちゃんが女装して架空の女性を演じて、ルイとラブラブなところを見せつけて諦めさせるってこと?」
セオドアは笑いを堪えながら話を整理する。
「そうだよ。何笑ってんだ」
テーブルの下でセオドアの足を蹴るルイ。
「いてっ、いや、ルイならハッキリ言いそうなのになーって」
「言いたいよ俺だって。でも王城で騒ぎは起こしたく無い」
ルイは大きな溜息を吐く。
「でもでも、僕が女装!?バレないかなぁ……?」
不安げに言うフィンに、二人は目を丸くする。
「バレる要素が一個も無いだろ」
「バレる要素が一個も無いじゃん」
ルイとセオドアが同時にそう言うと、フィンは目を見開く。
「そうなのっ……?そ、そっかぁ、じゃあ頑張る!ルイくんがお願い事なんて珍しいしねっ」
フィンは満面の笑みを浮かべて頷くと、ルイは安堵した表情を浮かべてから鋭い目を二人に向けた。
「そうと決まれば作戦会議だ」
「らじゃーっ」
フィンは楽しそうに手を上げる。
「あ、女装頼むならいい店知ってるよ。そこの心配はしなくていいぜー」
「頼りになる」
セオドアは得意げに親指を立てた。
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約束の時間に、往生近くの広場に女装したフィンが現れる手筈になっていた。
ルイは時計を確認し、約束ピッタリの時間になったのを確認する。
「ルイくーん」
呼ばれた方向に目を向けたルイは、思わず目を見開き言葉を失った。
愛らしい淡いピンク色のドレスを着て、白い日傘をさすフィンが目の前に現れる。正体がバレないよう、金色のロングヘアーのヴィッグを被り、メイクもきちんと施されたフィンは、どこからどう見ても麗しい乙女になっていた。
「みてママ、綺麗なひとー!」
「あんな子この辺にいた?すごく可愛い」
「どっかの令嬢?」
「素敵……」
そこら辺にいる貴族の娘よりもレベルの高い仕上がりになっていたため、周囲にいた人々もその美しさに息を飲む。しかし、当の本人であるフィンはもちろんそれに気付かなかった。
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