【完結】大魔法師様は運命の恋人を溺愛中。〜魔法学院編〜

みるくくらうん

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一年生・秋の章<それぞれの一週間>

ルイの悩み⑥

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「誰かいるのか」


 気配を感じたルイは、部屋の中から声をかける。ハイエルフの察知能力は頗る良いもので、リュシエンヌは思わず息を止めた。


「……」


 リュシエンヌがノックをしようか迷っていると、部屋の中にいたルイは続ける。


「用があるなら入れ。鍵は開いている」


 部屋の中から聞こえる、ルイの低い孤高な声色。そしてリュシエンヌにとっては、愛おしくて堪らない声だった。


「……失礼します」


 リュシエンヌは唾を飲み、意を決してルイの部屋に入ると、ロッキングチェアーで本を読むルイの姿があった。
 ルイはリュシエンヌの方を見ると、本を閉じて首を傾げる。目があった瞬間、リュシエンヌは胸を高鳴らせた。


「(ああ、ルイ様……まだうら若きハイエルフ。されどこの存在感。もっと大人になった貴方を間近で見ていたかった)」


 リュシエンヌがうっとりした目でルイを見ていると、ルイはその張り付くような不快な視線に苛立ちつつ表情に出さないようにリュシエンヌの荷物を指差した。


「随分と大荷物だな。旅行でも行くのか?」


 ルイの指摘に、リュシエンヌは暗い表情を浮かべた。


「……突然ですが、明日から別の城に仕えることになりました。最後にお世話になったルイ様にお会いしたくて部屋の前まできたのですが、夜遅いので迷っていまして」


 リュシエンヌがしおらしく、同情を引くようにそう言うと、ルイは内心笑みを浮かべた。


「王城を出るのか?随分と急だな」


 不可解そうな演技をするルイ。


「その……私の家は王家に仕える由緒正しき身。北にある王家が建てた城に仕えることになりました。あの土地は帝国領土も近い場所。危険な土地でもあるため人手不足だそうで、中々手を挙げるものが少なくて」


 リュシエンヌもまた、精一杯健気な演技をし気を引こうとする。
 

「お前はメイドの鑑だな」


 ルイは立ち上がりリュシエンヌに近付くと、ニコッと笑みを浮かべた。リュシエンヌはその笑顔を見ると、ルイから離れたくない気持ちがじわじわと溢れ出してしまい、顔を赤くして目を潤ませルイを見上げる。


「ルイ様……」


 切なげに名前を呼ぶリュシエンヌ。


「寂しくなるな」


 ルイは演技で寂しそうな表情を浮かべると、リュシエンヌはその表情にハッとする。


「(ルイ様が寂しがってくれるなんて)」


 リュシエンヌは思わず目を逸らし、赤い顔のまま口を開く。もしかすると、お情けで今夜だけでも抱いてもらえるのかもしれない。そんな錯覚を起こしたリュシエンヌは、演技で涙を流して見せた。


「どうかしたのか(バレバレの演技だな、この女)」


 突然泣き出すリュシエンヌに、心配する素振りを見せるルイ。


「い、いえ……王城での生活が長かったものですから、寂しくなってしまって。だから誰にも会わないように夜中に発とうと思ったのですが。だめですね私ったら。
 それに、ルイ様を残して王城を去るのがどうしても、その、心配で」


 リュシエンヌがそう言うと、ルイは引きつった表情を浮かべる。相手は目を逸らしているため分からないが、ルイはなんとか笑みを浮かべて見せた。


「心配しなくてもいい。俺にはミシュリーがいるからな」


 ルイがミシュリーの名前を出すと、リュシエンヌは一気に現実に引き戻され表情を強ばらせる。


「そういえば……さっきから何通もミシュリーに手紙を送っているのに、返事が来ないんだ。何故だと思う?」


 続け様にルイはミシュリーの話を続けると、リュシエンヌはギリっと奥歯を噛んだ。


「さ、さぁ、何ででしょうか。(死んでるなんて口が裂けても言えないわね)私には庶民の考えることは分かりません。育った環境が違うのですから。庶民は奔放だと聞きます。もしかしたら、別の方と楽しんでらっしゃるのかも」


 リュシエンヌはミシュリーに別の相手がいるのではと指摘する。


「ミシュリーに限ってそれはない。あの子は一途で良い子だ。確かに庶民の出だが、家柄などどうでもいい。俺は、純粋で、素直で、よく笑って、努力もたくさんするあの子を、心から可愛いと思う」

「っ……」


 ルイは自然とフィンを思い浮かべて優しい笑みを浮かべると、リュシエンヌは言葉に詰まり一瞬罪悪感に苛まれる。


「(ルイ様は、ミシュリーが死んだと分かれば、どれだけ心を痛めるのだろう)」


 深い悲しみに堕ちるルイを想像するリュシエンヌ。


「(でも、それを救うのは私でありたい)」


 リュシエンヌはルイを見上げ、どうせ今日が最後の王城勤めの日ならばとルイの胸に飛び込んだ。


「!」


 ルイは眉を顰め、リュシエンヌを抱き締めることはなくただ立ち尽くす。


「私見てしまったんです。ルイ様」

「……何を、だ」

「ミシュリー様がお帰りになられた後、たまたま街を行くと別の男と仲睦まじく手を繋ぐ姿を見たのです」

「(大嘘つきめ)」


 ルイはグッとリュシエンヌの肩を押して悲しそうな演技をした。


「本当か……?」


 ルイは目を見開き驚きを示す。


「はい、ですから……」


 リュシエンヌはニコッと笑みを浮かべて付け入ろうとするが、ルイは怒りに満ちた表情を浮かべ始める。少し殺気を放つと、リュシエンヌはビクッと体を震わせた。


「俺のミシュリーに手を出すなんて」

「え……?」

「相手の男は徹底的に潰してやろう」


 ルイはニヤッと笑みを浮かべて悪魔のような狂気に満ちた表情を浮かべた。


「まずはミシュリーを今から探さねば。たくさんひとを呼んで派権させよう。見つけ次第ここに連れ戻してやる」

「え?え?」


 ルイの変貌に驚くリュシエンヌ。


「蛇の一族は執念深いんだよ。大事なものを奪われたら徹底的にやり返すんだ。なあ、リュシエンヌ?」


 威圧的な魔力を放出するルイに、リュシエンヌは思わず後退り冷や汗を垂らした。
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