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一年生・秋の章<それぞれの一週間>
フィンとメイド服②
しおりを挟む「女装姿をアイツらに先に拝ませるなんて」
弟子であるルイとセオドアは、こんなにも可愛いフィンの女装姿を生で見ている。その事実が気に食わないリヒトは、フィンを睨み付けるように見つめながらそう訴えた。
まるで幼い子供のように拗ねた表情を浮かべるリヒト。
「フィンの可愛い格好を……俺よりも先に」
リヒトの声色が徐々に曇り、その表情は険しい。
このままではルイとセオドアに何かしら文句を言いにいくのでは?と危惧したフィンは、慌てた様子でリヒトの腕を掴んだ。
「リ、リヒト」
「……」
「リヒトのために、女の子の格好するから、機嫌直して……?」
フィンはリヒトの背中を撫でて潤んだ瞳で見上げると、リヒトはピクっと身体を動かす。
「……どんな?」
リヒトはまだ拗ねたようにむすっとしたままフィンに問いかける。
「え、えと……」
今すぐリヒトの機嫌を治さなければと考えたフィンは、少し考える。同じ格好をしたところでリヒトの機嫌は治らないだろうと悟ったフィンは、うーんと目を閉じて考えた。
「あ!」
「っ?」
急に声をあげたフィンに、リヒトは目を見開く。
「いいこと思いついた!あのね、ちょっとまってて!リヒトのために、僕頑張るからっ」
何かを思いついたフィンは、床に落ちていた自分の寝間着を掴んで身体を隠しながらベッドルームを慌てて出て行く。
「ちょっ……」
フィンの勢いに驚いたリヒトは、呼び止める間も無くフィンの背中をぽかんと見て狼狽えるが、あまりの勢いに笑みを浮かべた。
「ふふっ……全裸で部屋を出ていくなんてはしたない子だな」
さぁ、一体何をしてくれるのだろう。リヒトは少しの期待を胸に、握っていた新聞を再度開いてフィンの女装写真を指でなぞる。
「可愛い……」
後で切り抜いてコレクションに保存しようと企むリヒトであった。
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一方のフィンは、アネモネの自室の部屋をノックする。
「はい」
アネモネはすぐさま部屋の扉を開くと、寝間着で身体を隠すフィンが立っており、アネモネは首を傾げた。
「フィン様。一体何が」
「あのね!ちょっ、ちょっとメイド服貸してほしいんだけど……今日一日。いいですか……?」
フィンは少し顔を赤らめながらアネモネに問いかけると、なんとなく察したアネモネは、コクリと頷き快諾する。
「承知致しました。私にお任せくださいフィン様。ぴったりのサイズをすぐにご用意して、立派な可愛いメイド姿にして差し上げます」
アネモネの目は心なしか輝いていた。
---------------------------------------------------
30分後。
ベッドルームで待機していたリヒトは、ノックの音が聞こえると扉を開ける。
「っっっ~!?!?」
リヒトは扉を開けた瞬間固まり、じっと動かず見下ろす。
それもそのはず、目の前にはメイド服を着こなした愛らしいフィンの姿があったからだ。
「今日一日、リヒトのメイドさんになりますっ」
フィンは満面の笑みを浮かべメイド服の裾を持ちお辞儀すると、くるりと一回転する。
元々肩まであった髪は二つ縛りに纏められており、ホワイトブリムまで装着されている本格的な仕様。さらに、裾を持った際にチラリと見えるガーターベルトに反応を示したリヒトは固まった。
「あ、“ご主人様”って呼んだ方がいいのかなあ」
フィンはリヒトが固まっている間も照れ笑いを浮かべながら首を傾げる。
しかし、一向に何も言わないリヒトに気付いたフィンは不安げに目を潤ませた。
「り、りひと……?あの、変、かな?だめだった?」
フィンの問いかけにハッとしたリヒトは、首を横に振った。
「ごめん……あまりにも可愛くて」
リヒトは自身の口を手で覆いながらフィンを見下ろす。
「よ、良かったあ……」
フィンはほっと胸を撫で下ろす。
「今日一日、俺のメイドになってくれるの?」
「うん!アネモネは今日はお休み!僕がなんでもするっ」
「そう、か……」
リヒトはニヤッと笑みを浮かべ、フィンの顎を持ちクイッと上げた。
「なら、きちんとメイドになりきってもらおうか。俺だけの可愛い可愛いメイドに」
--------------------------------------------------
「ご主人様、入ってよろしいでしょうか」
メイドになりきっているフィンは、ティーセットをサービスワゴンで運び、リヒトの執務室をノックした。
「入れ」
リヒトもリヒトで、完全に“ご主人様”になりきった様子。
フィンは「失礼します」と言って執務室に入ると、ワゴンを押して紅茶を淹れ始めた。この家に来て何度か紅茶を淹れることがあったので、手慣れた様子でリヒトに紅茶を差し出す。
「アールグレイです」
「ああ。ありがとう」
リヒトはその紅茶を少し飲むと、フィンを見て笑みを浮かべる。
「美味しいよ」
「ありがとうございますっ」
フィンは心底嬉しそうに少し顔を赤らめ笑みを浮かべると、ワゴンを押して退出しようとする。
リヒトはフィンの手を掴んだ。
「待て。どこへ行く?」
「へっ、あ、えと、メイドなので他のお仕事を、と。ランチの用意とか」
「そんなことは必要ない。お前は俺の側にずっといて俺の世話をしろ」
リヒトはフィンをジッと見つめ脅迫じみた声色でそう指示をする。ねっとり絡みつくような視線がフィンを捉えて離さず、フィンは庇護欲を駆り立てるような表情でリヒトを見つめ頷いた。
「はい……仰せのままに。その、何をしたら良いですか……?」
「……そうだな。私の髪を梳いてくれ」
「はい!」
フィンは嬉しそうに櫛を取り出すと、「失礼します」と言ってリヒトの髪に触れた。煌めく上品な銀髪は枝毛が無く滑らかで、リヒトは思わず顔が綻ぶ。
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