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一年生・秋の章<それぞれの一週間>
フィンとメイド服①
しおりを挟む普段なんとなく新聞を流し読みをするリヒトは、執務室でコーヒーを飲みながら新聞を捲る。
すると、そこには驚くほど可愛らしい女性の写真と共に、“王都に謎の美少女降臨”という見出し文が書かれた記事を見つけた。興味が全くなかったリヒトは、次のページに進もうと指を動かすが、写真に違和感を感じ再度じっくりと美少女の写真を見つめる。
「……これは」
既視感を覚えたリヒトは、さらにその写真を睨み付けるようにまじまじと見つめると、突然立ち上がった。
「フィン」
写真の美少女がフィンだと気付いたリヒトは、その新聞のページを持って慌ててベッドルームを目指す。その表情は焦燥が滲み出ていた。
部屋に入ると、昨晩リヒトに愛でられたフィンが裸で毛布に包まりながら眠っており、リヒトは部屋に入った瞬間音を立てないようにそっと歩く。
「……まだ寝てる、か」
すやすやと寝息を立てて眠る天使の姿に、リヒトは優しい表情を浮かべてそっとベッドの淵に腰掛けた。
「フィン……困ったな。そんな可愛い顔で寝られては起こしにくい」
この記事の美少女は間違いなくフィンだ。
確信を持っているリヒトだが、目の前の天使を無理矢理起こして問い詰めるようなことまでは出来ない。この寝顔をもっと見ていたい。
だが、なぜ女装をしたのかその理由を聞きたくて仕方がない。
リヒトは葛藤しながら、目を細めフィンを見つめ続ける。
「けど……俺に黙ってこんなことするなんて、いけない子だね」
リヒトはそっとフィンの頭を撫で、ミルクティーのような柔い色をした髪を掬うように掴むと、匂いを嗅いでから愛おしそうに見つめそっと額にキスをした。
「すー、すー」
フィンは少しも起きることなく気持ち良さそうに眠っているため、リヒトはクスッと笑みを浮かべ頬を撫でた後、首もすりすりと撫でて様子を伺う。
フィンはピクリとも反応せず、気持ちよさそうに寝息を立て続けた。
「今日は深い眠りだな」
フィンは寝付きが良く、時折どんなに揺すっても起きないぐらいに深く眠る時がある。今日がその日だと悟ったリヒトは、フィンがかけていた毛布をそっと捲った。
「起きないなら悪戯するよ」
リヒトは少し小さめの声でそう問いかける。しかしフィンは起きることなく、仰向けで寝続けていた。
いつもなら好きなだけ寝かせてあげているが、今はとにかくなぜこんな格好をしたのかが聞きたい。リヒトはそう考え小さく溜息を吐いてフィンの耳にキスをした。
無理矢理起こそうと思えば起こせるが、リヒトはあえて段階を踏むことにする。
「フィン」
リヒトは毛布を全て捲ると、フィンに覆いかぶさるような体勢になりキスをした。柔らかいフィンの唇を啄むと、舌を入れて吸ったり舐め回し、気付けばフィンの手首を強く握って押さえつけている状態になる。
「んんー」
フィンは少し声を出すが、それでも深い眠りについたまま目を醒さない。
リヒトは次に、フィンの鎖骨に舌を這わせる。
「んん、ゃー……っ」
フィンは眠ったままくすぐったそうに身を捩る。
「いや?」
リヒトは今度はフィンの乳首に舌を這わせ強く吸い付くと、今度は流石にビクッと反応を示しフィンは少し目を開いた。リヒトは薄ら笑みを浮かべフィンの視線を拾うように目を合わせにいくと、「フィン」と小さく呼ぶ。
「ん、ぇ……?」
寝ぼけ眼のフィンは、暫く状況を読み込めないままぼーっとリヒトを見上げた。
フィンの目が開いたことを確認したリヒトは、新聞を取り出すと、フィンの女装写真の載った記事をフィンに見せる。
「フィン。これ、説明してもらおうか?」
リヒトの低い声と、目に飛び込んだ自身の写る新聞記事を見てすぐに覚醒したフィンは、目を見開き慌てた様子で新聞を掴み飛び起きた。
「ななななんで僕が新聞にっ!?」
いつの間に写真を撮られたのだろう。以前、エスペランス祭の取材でルイやセオドア等と共に一面を飾ったことはあるが、こんなにすぐにまた新聞に取り上げられるとは。
しかし、これはフィンではな“ミシュリー”。今謎の美少女として新聞に取り上げられていることに狼狽えつつも、自分だと分かるのはリヒトだけだろう。
「やっぱりフィンなんだね」
リヒトは軽くため息を吐きながらもフィンから新聞を奪い取り再度押し倒す。
「わっ!あ、あのね……ごめんね?隠すつもりは全然無かったんだけど」
フィンは申し訳なさそうにそう話すと、リヒトはフィンの顔を掴んで目を細める。
「説明して?どうしてこんなことを?」
リヒトは相変わらずの美しい顔でじっと見下ろした。
「うんとね……」
フィンはルイ達と計画を立て、メイド長を追い出す計画を実行し成功させたことを話す。事の顛末まで聞き終えたリヒトは、表情を少し曇らせてベッドの端に腰掛けると溜息を吐いて俯いた。
「なるほどな……アイツらしいやり方だ」
ルイは他人に迷惑をかけることを躊躇うタイプであるため、こういった頼み事をするということは王城でよほどストレスを抱えた生活をしていたのであろう。
信頼のできるフィンとセオドアに、何としても被害が行かないように考え込まれた設定とシナリオ。フィンに至ってはメイクとヴィッグで完全に女性にしか見えないようになっており、この新聞だけでフィンと気付く人はおそらく自分以外にいない。
「……確かにルイの方法なら、セオドアとフィンが身バレもせず、やり返されるリスクは低い。メイド長が罪の意識を背負い戻ってくることにリスクがあると判断した以上は、もう王城に戻らないかもしれないしね」
それに何より、この計画の顛末を語るフィンの目が輝いていた。リヒトはチラッとフィンの方を見ると、フィンは毛布で肩まで身体を隠しながら起き上がり、怒られてしまうのかと目を潤ませている。
「フィン、楽しかったんだね」
「っ」
フィンは目を見開いたあと、小さく頷いて口を開いた。
「最初はびっくりしちゃったけど、でも、三人で協力して成功した時、なんかすごく楽しくて。ルイくんも、これで安心して過ごせるんだなって思うと嬉しかったの」
フィンは目を細め優しく微笑むと、リヒトは溜飲が下がったような感覚になったのかフィンを見てから頭を撫でた。
「気持ちはわかる。俺も昔、三人で色々やったから」
ミネルウァの黄金世代と言われた時代。リヒトはアレクサンダーとエリオットと結託しフィンには自慢できないような事をよくやっており、リヒトはそれが楽しかった記憶だったのか、少し思い出して軽く笑みを見せた。
フィンは安心したように表情を緩ませるも、リヒトは途端に目を鋭く光らせる。
「でも」
「!?」
「一つ許せないことがある」
「え……」
フィンは小動物のようにぷるぷる震えながら毛布を掴んでリヒトの様子を伺った。
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