The Tale Of The End

碓氷雅

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十年前の約束

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舗装された山道を行く車を運転しながら、流れてくるラジオをそれとなく聞いていた。
「世界はもうすぐ終わりを迎えます」男性アナウンサーが、悲しさからか震える声を抑え抑え言う。「どうかパニックにならず、大切な方と幸せな終末を迎えてください」
パニックになりそこないのアナウンサーに言われてもな、と一人で苦笑する。
最近はこの話ばかりになった。どうか——と言ったところで、パニックになる人はなるし、ならない人はならない。目的を携える私には、耳に障る雑音らしい。
チャンネルを変えても、どこも同じことしか言ってない。——と、急に周りのものが音を立てて揺れだした。
慌ててブレーキを踏む。またか。最近は随分と頻度が上がってきている。
そんな世界の終末が身に染みて来ていた今までも社会は回っていられたのだから凄いと素直に感心する。ただ、「世界は終末を迎えた」と発表された当時は酷い混乱ぶりだったな、と思い返した。揺れはまだ、続いている。
金持ちと言われる類の人々は皆、地中にシェルターをつくり、政府はこぞってNASAに圧力をかけた。何とかして安全な星へ我々だけでも連れて行け、と。
これを知った庶民は大激怒。各国政府の支持率は0近くまで下がった。
新興宗教は泡のように出現し、そのほとんどがすぐに消えていった。実際は宗教とは名ばかりの自殺集団に過ぎなかった。
やっと揺れが収まり、アクセルを踏み直す。あと少しで約束の館に着く。もしかしたら、彼はもう着いているかもしれない。
気が滅入るだけのラジオは切り、サイドウィンドーを下げた。こうして、風に当たりながら彼を思い出す方がよっぽど有意義だ。
発表があった当時は、お互い大学生だった。いや、新社会人になろうとしていた時期だったと言った方があっているかもしれない。それから、かれこれ十年。
年端もいかない私達は、世間の酷い混乱ぶりを目の当たりにし、何を思ったか、約束を交わした。拙い、守れるかも分からない約束を。デマやフェイクニュースにほとほと疲れきっていた時だったから、これくらいの希望は持っていいだろうと二人して思ったのかもしれない。
結婚の話はさることながら、同棲すらしておらず、互いに別の就職先を見つけていたその時分の事だった。地球はもって十年。なら、その十年くらい、一緒に過ごしたい。そう言って内定を蹴ろうとしたのは私だった。けれど彼はそれをよしとはしなかった。
「世界の終末の話は、それこそ嘘かもしれない。もしそうだった時、色々困るだろう?」
彼はそう言ったが、何が困るというのか、よく分からなかった。ただ、その目には自身を自制しようとする意思が垣間見えていたのを今でも覚えている。
十年後にまた会おうよ。そう切り出したのはどっちだったか。今ではもう覚えていない。
「思い出の館でまた、一緒にワインでも飲もう」二人でその年のワインを買って、館のワインセラーに大切に保管した。ワイン好きな彼が選んだものだ。きっと美味だろう。
声を聞くと会いたくなる。文字であってもそれが愛する人の打った文字書いた文字ならば、会いたくなるに違いない。だから、それらのツールは一切使わないことにした。会えば、せっかくの二人の覚悟も、簡単に折れてしまうだろうから。けれど、電話番号はスマホから消したことは無い。きっと彼も。消してしまえば繋がりが消えてしまいそうに感じて怖かった。若さゆえに、そこまで強くはなかった。
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