ネタバレすると、俺が男主人公なことは確定。

杏2唯

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ようこそ村咲学園へ

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 真新しい門をくぐったその先には、俺や佐伯と同じく今日入学式を迎えた同級生で溢れていた。

 人、人、人……そして

「学ラン、セーラー、学ラン、ブレザー男、ブレザー女、セーラー、ブレザー男……」
「何ぶつぶつ言ってるの麻丘くん」
「セーラー、セーラー……」
「麻丘くんってば!」
「……佐伯も、セーラー……」

 どうなってんだよこれは。この光景は。
 
「なんでブレザーの制服の奴らもいんだよ!? 学ランとセーラーが村咲学園の制服に決まったんじゃないのかよ! どういうこと!?」

 目の前に溢れ返る同級生達の制服はそれはもう見事にバラバラだった。
 どこかと合同で入学式でもやるのか? そうだと信じたい。じゃないと学ランを着ている俺が正解なのか不正解なのかがわからない。そもそも正解なんてあるのか。

「ブレザーだとああいう感じなんだねぇ! ブレザーもいいね! 麻丘くん!」
「そうだな特に女子のチェックのスカートがやっぱり可愛い……ってそんなことはどうでもいいんだよ!」
「麻丘くん一人ノリツッコミ上手~」

 ゼェハァしている俺とは真逆で佐伯はのほほんとしながらパチパチと控えめな拍手をした。

「佐伯はおかしいと思わないのか!? 俺達が間違った制服着てるかもしれないとか!」
「それはないよ~他にも学ランとセーラー服の人はいるし、ブレザーを着てる人達はブレザーにマルをつけた人達なんだよ」
「はぁ? あれって、制服を学ランかブレザーか決めるためのアンケートだったんじゃ」
「うん。だから“自分が着たいのは学ランかブレザーか”を決めるためのアンケートだよね」
「自分が、着たい方を決める……?」

 制服って、そういうものなのか? 他の学校でもこういった取組が開始されたりしてるのか?
 制服はその学校の象徴っていうか、統一されてるからこそイイものであって……ハッ! 俺のこんな考えが古臭くて時代は常に先に進んでいるのか!

「麻丘くん……」

 俺がまた頭を抱えその場にうずくまっていると、心配そうな佐伯の声が頭上から聞こえた。
 ポンっと優しく俺の頭の上に佐伯の手のひらが乗り、そのまま撫でられる。

「さ、佐伯っ……!」

 さっき出会ったばかりの、しかも可愛い女の子に頭を撫でられるとか、どんなレアイベント発生してんだよ!
 俺の想像より遥か先を進む時代の進歩に若干の頭痛を覚えていたが、佐伯が頭を撫でてくれていることによってその痛みがなくなっていくような気がする。

「元気出してね、麻丘くん……私知らなかった」

 優しいな佐伯、いいんだ。俺が時代の波に乗れていなかっただけなんだ。きっとそうだ。そうであれ。

「ホントはブレザーが着たかったんだね?」
「違う!」
「あれ?」

 佐伯の言葉も俺の想像の遥か×50くらい先を進んだ言葉だった。

「……はぁ。何かどうでもよくなってきた」
「?」
「佐伯の天然ボケのお蔭で元気出た。ありがとな」
「よくわからないけどどういたしまして!」

 村咲学園は、ちょっと変わった学校なんだと思う……というか、絶対にそうだ。
 やたらと自由な学園生活をっていうコンセプトを推していたことをふと思い出す。それならこの制服の件も少しは納得ができる。

「とりあえず体育館に行けばいいんだよな?」
「そうだよ! もう始まっちゃうし、早く行こう!」

 またまた佐伯に手を引かれながら体育館へ向かい、ピカピカの上履きへと履き替える。
 制服の件があったから上履きも全員違ったりとかしたらどうしよう……と少しだけドキドキしていたが佐伯の上履きは全く俺と同じ物だった。基準がわからん。

 体育館に入ると、特に列などが作られているわけでもなく、みんなごちゃごちゃと好きなところに立っているだけだった。
 俺は佐伯と一緒に適当なところでみんなと同じく入学式が始まるのを待機しながら周りを見渡してみる。バラバラな制服にもだんだんと慣れてきた。

<はーい! みなさんお待たせしました! 入学式を始めますよー!>

 突然体育館のスピーカーから声がしたかと思うと、少しだけざわついていた体育館は一気にシーンとする。体育館の扉がピシャリと閉められ、檀上にカツカツとヒールの音を響かせながら、無駄に色気を醸し出している大人の女性が登場した。

「選ばれし一期生のみなさん、入学おめでとう。そして……ようこそ! 我が村咲学園へ!!」

 細フレームメガネをかけたスタイル抜群の白衣姿のその女性が両手を広げながら高らかに叫ぶ。

「ワタシがこの学園の校長、西条結城サイジョウユウキです。以後お見知りおきを」
「こ、校長!?」
 
 この色気ムンムンの女性が!? 今も妖艶な笑みを浮かべているこの女性が!? 男なら一度は憧れるエロい保健の先生をそのまま再現したような白衣を着たこの女性が!? つーか何で校長なのに白衣!?
 やはりみんなも驚いたようで、体育館がまたざわつき始める。 

「うわぁ~校長ってこんなに美人な人だったんだ~!」
「だよな? 俺はてっきり面接してくれた男の人が校長なのかと思ってた……」
「ねっ! 私もそう思ってたよ!」

 じゃああの面接のときにいた男は何者なんだ? とも思ったがこんな美人が校長ならそれはそれでオーケーである。寧ろナイス! 俺は無意識にガッツポーズをしていた。

「…………」

 校長はじぃっと体育館にいる生徒を舐めるように見回し始め、何故かわからないがまたもや体育館に若干の緊張が走る。
 
「うん! みんな制服もいい感じねぇ~」

 どうやらこの統一感のない制服を見ていたようだ。校長は満足そうにウンウンと頷いている。

「では、ここで第一期生となる生徒諸君に、ワタシからこの学園の説明をしたいと思います。この学園でのルール等も、重要なことだから校長のワタシ自ら言わせてもらうわ」

 学園の、ルール?

「まず、この学園の入試試験は学力よりも面接重視……つまり一人一人の個性を見させてもらったの」

 校長のその言葉を聞いて、俺は面接試験のときのことを思い出していた。

「確かに変な質問された気がするな……いや寧ろ変な質問しかされなかった気もする」
「あ~わたしも確か昨日の晩ご飯何食べたかとかそういうゆるい質問ばっかりだったなぁ」
「晩!? 俺が聞かれたのは朝メシだった気がするぞ……」

 しかも「麻丘くんか~朝ご飯は何食べたの?」みたいなクソみたいに軽いノリだった。麻丘と朝をかけたんだろうけど漢字が違うというツッコミをしたい衝動を俺は一生懸命抑えていたのを覚えている。

「そしてその面接をクリアして、晴れて今日というこの日に入学を果たしたのがここにいるみんなよ! みんな胸を張りなさい!」

 校長の拍手が体育館に響き渡る。周りの奴らも何だか少し嬉しそうな顔になってるし、横で佐伯は胸を張っていた……ん? 佐伯って結構胸ある……じゃない! 何考えてるんだ俺!! 俺が今言いたいのはそんなことじゃない! いやいや佐伯の胸が結構デカイってことがそんなことで片付くわけがないんだけど、とにかく今はそうじゃないだろ俺!! でも何故だ目が離せない……!

「麻丘く~ん? ひとりでにらめっこしてるよ? どうしたの?」
「へっ!? あ、いやぁ……」
「ねぇ! 私達今校長に褒められたね! 嬉しい!」
「……っ!」
「えぇえ!? 麻丘くん大丈夫!? どうしたの!?」
「い、いいんだ……今俺の中にあった邪心を俺ごとぶっ飛ばしただけだから」

 純粋に校長の言葉に喜んでいる佐伯のキラキラとした笑顔を見て、一気に俺は罪悪感でいっぱいになりそのまま自分で自分の頬を殴った。
 
「てかさ、あんなワケわかんねー面接にクリアした集団って……」

 一体どんだけ個性強い人間が集まってんだよ……
 そんな不安を頭の片隅に抱えながら、まだまだ続きそうな校長の話を聞く体制に入る。

「この村咲学園の校訓を、生徒のみんなに教えようと思います。大事なことだから真剣に聞いてちょーだい」

 心なしか後半の方すごくセクシーに言っていた気がするが、気にしないで真剣に聞こう。

「村咲学園の校訓……それは個性、自由、そして――真実の愛よ!」

 は? え? 
 個性、わかる。面接で個性を見たって言ってたばかりだし。
 自由、わかる。まず制服が選べる時点で自由すぎるだろ。
 で、最後何だって?

「真実の、愛?」

 わかんねぇよ!

 多分周りの誰もが俺と同じことを思っているだろう。誰も言葉を発さない。恐ろしいくらい静かになった体育館は校長がひとりでスベッてしまったみたいな変な空気になっていた。

「フフッ……フフフフフ……」

 しかしその静かな体育館に校長の笑い声だけが響き始める。笑い声すら色気を感じてしまうからやはり無駄にエロい。

「そう! この学校は個性豊かで自由な教育、そして学園最大のポイントは何者にも囚われない……そう性別にだって囚われない真実の愛! だからこそ!」

 何者? 性別? 囚われない? 

「村咲学園は“男”と“女”を見分けられない最高に自由な環境を用意したわ!」

「は……?」

 何言ってんだこの無駄エロ長!?
 どういうことだよ男と女を見分けられないって……

「女が男の格好をしててもオーケー! またその逆もオーケーオーケー! それを見分けることは自分以外誰にも出来ないのだから!」

 見分けることが、自分以外出来ない!?

「男を青とするなら、女は赤……そしてそれを混ぜた色は何色になるかしら? そう! 紫! それがこの村咲学園の名前の由来よ!」

 校長がそう言うと「おおーっ!」という歓声と共に体育館には次から次へと拍手が起こった。
 待て、何の拍手なんだ、いやその前にさっきの話をみんなおかしいと思わないのか!?

 この間違いなくイカレた学園に、俺の頭は追い付くことが出来るだろうか。
 巻き起こる拍手の中、俺は叫ぶ。

「マジで意味わかんねぇよおおおおおお!」

 そしてこの俺の悲痛な叫びは、拍手の音でかき消されるのだった。


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