ネタバレすると、俺が男主人公なことは確定。

杏2唯

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愛しさと切なさと何とかっていうよね

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 次の日の休み時間、俺の教室までわざわざ迎えに来てくれた東宮と共にD組の教室へと向かった。

「麻丘くんと一緒だからかな……何だかすごく心強いよ」
「そ、そうか? それならいいけど……」

 いやいやめちゃくちゃ震えてるから! 腕組むのやめてもらっていい!? どっからどう見ても男同士が腕組んでるようにしか見えないから! 二階堂の次は東宮かとか思われちゃうから!

 ――なんて、思うことはたくさんあったけど、小鹿のようになっている東宮と昨日の荒れている東宮を思い出すと、俺は何も言うことが出来なかった。

 A組からD組までの距離なんて、端から端と言えどもちょっと信号渡った~くらいの距離なもんで、それはそれはあっという間に到着するワケで。

「えーっと、東宮、俺どうすればいい?」

 何の変哲もない教室のドアの前でずっと立ち尽くすのもアレだし、来た意味がなくなる。
 俺の問いかけが聞こえていないのか、東宮からの返事はない。え、困るんですけど……

「とりあえずドア開けるけど――」
「ちょっと待って!」
「うわぁっ! いきなり大声出すなよ!」

 ドアに手をかけると、東宮が物凄い勢いで制止してきた。たかが教室のドアを開けるだけなのに何なんだこの警戒心は――昨日言ってたみたいに何か仕掛けがしてあるとか? どうせ黒板消しとかだろ?

「東宮、気持ちはわかるけど教室に入ってその問題児に会わないことには話が進まないだろ? 俺が責任持ってドア開けるから――」
「っ! 麻丘くん、伏せて!」
「は――な、何だブボボボボボボボボ」

 突然何を言い出すんだ東宮――と思った矢先。
 気付いた時には溺れていた。いや現在進行形で溺れている。顔面に凄まじい水圧を感じる。
 伏せて水の直撃を免れた東宮が俺の名前を叫ぶ声が聞こえた。

「イエェーーイ! イインチョ命中! どうだオレ様が昨日徹夜で改造した水鉄砲の威力は!」
「え、徹夜したんですか? どうりで普通の水鉄砲より水の勢いがすごいのですねぇ」
「……刹那、その人青葉委員長じゃないような」
「ハァ? 何言って――ってマジだ! え、誰だコイツ顔見えねェぞ!」
「青葉さんは横で見事に回避されてますね。素晴らしいです!」
「……刹那が水鉄砲やめたら、顔見えると思う」
「あ、そっか。さすが心は天才だなーっ!」

 その瞬間、容赦なく俺を襲っていた水がピタッと収まる。

「ゲホゲホッ! ……し、死ぬかと思った」
「麻丘くん大丈夫!? 大丈夫じゃないよね! ああだから伏せてって言ったのに!」
「そんな急に言われても俺そんな対応能力ないって……てかずぶ濡れなんですけど!? どうすんだよまだ授業あんのに!」

 水鉄砲攻撃をいきなり受けた俺は、予想外に濡れていた。シャワーでも浴びた? と問いただしたくなるであろうくらいには濡れている。

「それなら大丈夫です! 誰だかご存じないですけど、こっちに来て下さい!」
「へっ? な、何?」

 三人いた内の一人に腕を引っ張られ、俺はD組の教室の窓際後ろの席に座らされたかと思うと、タオルで髪や顔を優しく拭かれる。

「はい、じゃあ乾かしますねー」

 そして事前に準備でもされていたのか、どこから出て来たかわからないドライヤーで今度は髪を乾かしてくれている。え、何なんだこの至れり尽くせりは。

「お客さん、熱くないですかー?」
「えっ!? あ、大丈夫ですけど……」
「ふふ、よかったです」

 穏やかな話し方で、穏やかに笑いながらそのまま丁寧に俺の髪を乾かすのを続けるこの人物が俺は誰かも理解してないけど、心地良いし有難いので細かいことは気にせず身を任せることにしていた――ら。

「ったく、相変わらず甘ェんだよな愛は!」
「……アフターケアは大事、だから」

 さっき俺に水鉄砲をぶっかけていた張本人と、その仲間であろうもう一人が戻って来た。そして二人の後ろには申し訳なさそうにしてどんよりと沈んでいる東宮の姿も見える。
 こいつら一体、何者なんだろう――いきなり水鉄砲かけてくる奴もいれば、黙ってそれを横で見てる奴もいて、更には何故か濡れたところを乾かしてくれる奴。何がしたいのか何が目的なのかもまるでわからない、問題ありまくりな三人組――あ。

「東宮、この三人が、昨日言ってた――?」
「……そう。他にいるわけないだろう。この三人だよ――D組の問題児!」
「「「問題児?」」」

 東宮の言葉に首を傾げる問題児三人組。まさかこいつら自分達が問題児じゃないとでも思ってるのか? どんだけ図太い神経してんだよ!

「今麻丘くんの髪を乾かしてるのが四ツ谷愛、水鉄砲をかけたのが中野刹那、その横にいる小さいのが三鷹心――! 村咲学園の悪魔三人だ!」
「何だ最初からそう言えよイインチョー! 悪魔なら納得!」
「悪魔なんてすごすぎて恐縮ですけど……」
「……悪魔よりは小悪魔の方がいい、かなぁ」

 いやいや問題児は自覚ないのに悪魔ならあんのかよ! しかも嬉しそうに受け入れてんじゃねぇよ!

 ――って、ツッコミたいことだらけなんだけどそれはもうめんどくさいからおいといて。そうか。この三人が昨日東宮の人格をあそこまで変えてしまった恐ろしい三人組か。

 俺は一人一人確認するようにゆっくりと視線を向けて行った。

 まず目の前にいる水鉄砲を持って口が悪いのが中野刹那か。一番の問題児っぽいな。でも、何だろうこの変な感じ……
 キリッとした瞳にスラッとしたモデル体型。赤いロングヘアーで、そう、女王様のようなオーラを纏っている。こんな美人の口からあんな汚い言葉が発せられるなんて想像しがたい。セーラー服を改造しているのかスカートがめちゃくちゃ長くて一昔前のスケバンみたいだ。竹刀の代わりに水鉄砲持ってるみたいな。

 その横にいるのがえーっと……三鷹心っていったっけ?
 小柄でショートで大人しそう――うん、ギャルゲーに確実にいるなこういうの。中野刹那と並ぶと余計小さく見えるな。
 特に害はなさそうで、どうして悪魔の仲間になってしまったのかわからない。俺の視線に気付いて少しビクッとしながら視線を落とすその姿に正直萌えてしまった。セーラー服の上にパーカーを羽織るタイプのようだ。

 最後に今俺をタオルで拭いたり髪を乾かしたりしてくれているのが四ツ谷愛。
 たれ目でサイド三つ編みで敬語。癒し系以外の表現の仕方が見つからない。現に今癒されている。彼女は多分悪魔じゃなくて天使だと思う。ただ一つ残念なのはセーラーではなくブレザーだということのみ。

 と、ここまで一人ずつざっと解説してみたけど――

「まさかの全員女子!? でもって問題児全員美女とか俺聞いてないよ!?」

 風貌は男で、短ランとか着ちゃってるヤンキーみたいなのを想像してたのに! まさかのレベルの高さに逆の意味で裏切られた感。

「何言ってるんだ麻丘くん! 見た目に騙されないで! それに女かどうかなんてわからないしボクには全員オスゴリラにしか見えないよ!」
「お、落ち着けって東宮……つーかオス限定なんだ……」

 東宮が昨日みたいにならないよう宥めていると、急に中野刹那が俺にずいっと近づいて来て顔をじーっと見てくる。めちゃくちゃガンつけられてる気分だ。眉間に皺を寄せるな美人が台無しだぞ。

「あぁっ! オマエ、赤組の団長か! どっかで見たことあると思ったんだよなァ」
「え? ど、どうも」
「いやーあの体育祭は楽しかったわ! 特に餅まき! なっ!?」
「……ちょっと餅まきした記憶はないかな、悪いけど」
「あ!? そうか赤組はしてないんだっけな。しゃーねェから今度餅持って来てやるよ!」
「はぁ……」

 ついさっきまで水を俺にぶっかけてたことなんてもう忘れているのか、それに対して全く悪びれる様子もなくフレンドリーに接されて俺はどう反応すればいいかわからなかった。

「……青葉委員長の、お友達?」

 今度は小さな声で、三鷹心が俺にそう問いかける。

「まぁ、委員長仲間だし、友達だけど」

 そもそも東宮の為に今俺はこのD組の教室に来てるんだからな。佐伯という本当の大天使を教室に残したまま! あぁ、早く帰りたい。

「それならわたし達とも友達ということですねっ」
「えっ」
「ま、そーいうことになるな!」
「……他のクラスの友達、初めて、かも」

 そーいうことってどーいうこと?
 四ツ谷愛の言葉に二人が納得して、勝手に友達にされている。こんな美女の友達だったら大歓迎と言いたいところだけどどう考えてもまともじゃない友達がいきなり三人増えても困るだけだ。まともじゃないのは中野刹那だけな気もしたけどこいつとつるんでる時点でまずまともじゃない。

「んじゃそろそろ休み時間も終わるし、続きは放課後ってことで!」
「放課後!? 続きって何の!?」
「オマエ、放課後D組までオレ様達を迎えに来い! 絶対だぞ!」
「迎えに!? 何でだよ!?」
「つべこべ言うなうるせェな!」
「……刹那、落ち着いて。怖がらせちゃダメだよ」
「あ、ワリ。まぁとにかく放課後な! 愛、終わりそうか?」
「うん! バッチリ! はい、完全に乾きましたー! お疲れ様でしたー」

 ドライヤーの音が止み、俺の濡れたところは完全に乾かされていた。いや、有難いけどこんな手間かかることするなら最初から濡らすなよ……

「東宮、俺どうしたらいい……? つーか役立たずだったよな」

 東宮が迷惑しているということを言いに来た筈が、水かけられて乾かされて終わりになっている。

「そんなことないよ。いつもだったら水かけられてたのはボクだったから……麻丘くん、迷惑かけてごめん」

 いつもだったらって、東宮いつもこんなことされてんのかよ。
 ダメだ。このままだと東宮がまた委員会で暴れることになる未来が見える。しかも近い内に。

 ――よし、放課後こいつらにちゃんと言おう。東宮に迷惑かけるなって。

 俺はそう決意して、東宮のピンチを今度こそちゃんと救うべく、放課後に臨むことにした……今からでも遅くないから、オトメと河合も一緒に来てくれないかな。


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