ネタバレすると、俺が男主人公なことは確定。

杏2唯

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ごめんね委員長。そして夏が来た

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「東宮! 今日の放課後少しだけでいいから時間ないか?」
「別に構わないけど……ハッ! そんなことより昨日は大丈夫だった麻丘くん! ストレス生産機達に付き合わされたみたいだけど……」
「ああ、思ったよりストレスは生産されなかったし寧ろ久しぶりにゲーセンで遊びまくって逆にストレスかいしょ――い、いや、何でもない。うん。まぁ大丈夫だったよ全然!」
「……? それなら良かったけど。 それじゃあ放課後、ボクがA組の教室に行けばいいかな?」
「いや、上の階の学級委員会室で待ち合わせでもいいか?」
「わかった。じゃあ放課後に」

 俺は東宮の背中を見送りながら、無事に東宮と放課後約束を取り付けられたことに安堵した。

 そう、今日はあの問題児三人が東宮に遂に謝罪をし、誤解を解くという一大イベントを控えている。
 まず純粋にあの三人の内誰かが東宮を誘ってもオーケーしてくれるワケがないので、俺が呼び出し役をすることになった。何だか東宮を騙してるようでちょっぴり心苦しいけど、これが東宮の為だから仕方ない。

 とりあえず刹那に呼び出しが成功した件をメッセージで送ると、謎の気持ち悪いスタンプが返って来た。よし、無視しよう。これ以上会話する気もない。

 後は放課後無事に和解すればいいんだけど、あの三人と東宮の温度差多分やばいよな……不安しかない。何故か俺が仲介役として立ち会うことになっちゃったし! まぁ首突っ込んだ張本人なんでそれはやらせてもらうけど!

「はぁ、入学してから落ち着いた日々が一度も来ないんですけど」

 心の声がいつの間にか漏れていた。

「麻丘くん、また何かおもしろいことでもしてるの?」

 俺のクソみたいな独り言に反応してくれる佐伯の笑顔が眩しい。

「え、俺そんないつもおもしろいことしてるように見える?」
「うん! いつも新しい人が麻丘くんの周りに現れて、楽しそうだなって。早乙女さんも、二階堂くんも、麻丘くんのおかげで私は友達になれたから」
「まぁ、オトメと二階堂だけで終わってれば良かったんだけどな……」

 今度は一気にめんどくさいのが三人増えました。

「それと毎回別におもしろくはないぞ」
「そうなの?」
「そうなの! 同じクラスなのが佐伯だけで良かった。佐伯だけが俺の癒しだからマジで」
「! 嬉しいな。じゃあ癒し係としてこれからも頑張るねっ」

 あー、可愛いな佐伯って。頑張んなくても俺の隣の席にいてくれるだけでいいんだよ。

 さっさと面倒ごとは終わらせて、佐伯とオトメと二階堂を誘って楽しくジェラートを食べに行こう、と俺はこの瞬間強く思った。

****

「――麻丘くん、これって一体どういう状況?」

 放課後。
 約束通り東宮がいつも学級委員会が開かれている教室へやって来た。

 目の前で正座して並んでいる刹那、四ツ谷、三鷹の姿を入ってくるなり確認すると、ギョッとした顔をして俺に問う。

「えー、見ての通りです……」
「見てもわからないから聞いてるんだけどーー麻丘くん、もしかしてこの三人を手下にでもしたの!? どんだけ人たらしなんだ君は! 怖い!」
「待て待て! 俺は生まれてから一度も人をたらしこんだ覚えはない!」
「たらしこみまくりだよ! 早乙女さんや二階堂くんがいい例だ!」
「いや、別にその二人はそういうんじゃ……」
「それに……この教室は、ボクが学園で唯一、肩の力を抜いて話せる場所だったのに……そこにこの三人を入れるなんて……見損なったよ麻丘くん。ボクはキミのことを本当に信頼してたのに」

 あれ、謝罪よりも前にすごぉーく悪い方向に話が進んじゃってない?

 でも確かに東宮にとっては大切だった場所にこいつらを招いてしまったのはミスだった。でも他に人が来ないで邪魔されずに話せる場所が思いつかなかったんだよ! 仕方ないだろ!

「東宮、それに関しては俺が無神経だったから謝る。ゴメン。んでもって――こいつら三人も東宮に謝りたいこと、言いたいことがあるらしいから、聞いてやってくれないか?」
「――謝りたいこと? ボクに?」
「そう。 俺昨日こいつらと放課後話して、いろんなこと聞いたんだよ。そしたらどうも東宮と三人には大きなすれ違いがあったっていうか、まぁ東宮は全く悪くないんだけど! とりあえず、後は三人に任せる」
「――すれ違い? ボクと、キミ達が?」

 後は餅大好き三人組に託すことにした。俺は傍観者に徹する。
 
「まずは、オレ様達のせいでどうやらイインチョに相当な迷惑とストレスを与えてしまったみてェで、そのことに関して……悪かった!」
「ごめんなさい。青葉さん」
「……ごめんなさい」

 正座した状態から綺麗に頭を下げる三人。三鷹に関しては土下座みたいになっている。そこまでしなくても。お前はどちらかというと加害者に巻き込まれた被害者だから! 三人の中では一番マシだから!

「い、今更そんなことで謝られても、わかっててやってたことなんだろう?」
「いや! こればっかりはマァァージで知らなかった! オレ様達からしたら、イインチョと仲良くする為のコミュニケーションだったんだよ。イタズラもさァ……」

 そう、この世で一番迷惑極まりないコミュニケーションな。

「仲良くする為の、イタズラ?」
「そうなんです。ほら、青葉さん、クラスにいる時は大人しくて、全然楽しそうじゃなかったから」
「……青葉委員長の笑った顔、見たくて」

 三人の本心を始めて聞いた東宮は困惑したような顔を見せる。そりゃそうだよな。何言ってんだこいつら? って思うよな。俺も昨日そうだったよ。今まで散々迷惑かけられた張本人としては受け入れるまで時間がかかるに決まってる。

「じゃ、じゃあ今までボクにしてきたことは……嫌がらせとしか思えなかった数々のクソみたいでガキみたいでカスみたいな所業は全部ボクを笑わせる為に?」

 まさか東宮の口からクソガキカスのスリーコンボを聞けるとは思ってもみなかった。

「まァ、アレだよ。なァ?」
「つまりは、青葉さんと仲良くなりたかったんです。わたし達」
「……うん。そういうこと」
「つーかオレ様はもう完全にマブの域に達すると思ってたから、イインチョが違ったって聞いて逆にビックリだったけどな!」

 刹那とマブになれる奴なんてこの二人以外この学園にいないだろ。

「昨日アサシンとも無事にマブになったことだし、イインチョとも和解して改めて仲良くしようってことだ!」

 いた。もう一人いた。しかもまさかの自分。待ていつからマブになったんだ。マブになる条件軽すぎない?

「――麻丘くん、前から言おうと思ってたんだけど友達は選んだ方がいいよ?」

 刹那とマブになったと聞いた東宮が物凄く真剣な顔をして俺にそう言ってきた。
 うっ……めちゃくちゃ胸に刺さる……! しかも前から思ってたのかよ……!

 返す言葉もなく、否定したらしたで刹那がめんどくさそうだし、俺は小さな声で「そ、そうだな。胸に留めとくわー」とか言って苦笑しながら東宮の真っ直ぐな視線から目を逸らした。

「青葉さん、まだ怒ってますか?」
「……どうすれば、青葉委員長許してくれる?」
「あ! そうだ! これやるよイインチョ!」

 そう言って刹那が長いスカートのポケットに手を突っ込みゴソゴソと中を探ると、そこから出てきたのは――餅(餅まき用)

「体育祭で、イインチョ拾ってなかったからな! オレ様の分けてやろうってずっと思ってたんだ!」
「わぁ……! せっちゃんナイスです! これで青葉さんの心もわし掴みですね!」
「……さすが刹那。思いやりがある」

 バカなの? こいつらバカなの? いやバカなんだわ。体育祭でお前らが勝手なことして東宮ブチギレだったのにその東宮ざ餅拾うワケないだろ。いらないから拾わなかったんだよ気付け!

 しかしバカ三人組はキラキラとした笑顔で東宮に餅を差し出している。東宮はそんな三人を見て、それはそれは大きなため息を吐いた。

「――何かもう、考えるのも、怒るのもアホらしくなってきたよ」

 そう言って、差し出しされた餅を受け取る東宮。

「ありがとう。でも次の体育祭ではちゃんと玉入れをするように……大体、玉入れから餅まきなんてどういう考えしたら思いつくんだよ……ははっ」
「「「……」」」

 それは、俺はよく見たことがあるけどーー三人にとっては初めて見る東宮の笑顔だった。

「笑った! うぉおおおおーい! イインチョが笑ったぞ! スマイルったぞ! 見たか!?」
「見ました! 青葉さんの笑顔、バッチリと!」
「……青葉委員長の笑った顔、可愛いんだね」

 まるでク◯ラが立ったばりに喜んでいる。きっとお前らが余計なコミュニケーションを取ろうとしなければもっと早く簡単に見られただろうにな。

 でもまぁ、大人な東宮のお陰で和解出来たみたいだし、これで東宮の暴走もなくなるだろう。

 オトメ、河合、俺学級委員会を守ったぞ! やれば出来るんだぞ俺は!

「んじゃァ、打ち上げ行くか! イインチョスマイル記念に!」
「いいですね! 今日はどこで打ち上がっちゃいましょう!」
「……今日のジュースはいつもより美味しく飲めそう」
「アサシンとイインチョも行くぞオラ!」
「「遠慮します」」

 綺麗に東宮とハモッた。二日連続こいつらに貴重な放課後の時間を取られるのはごめんだ。

  ノリワリィなー、と刹那にぼやかれながらも、テンションの高い三人は嵐のように教室から去って行った。

「……麻丘くん、本当にいろいろとありがとう。さっきは見損なったなんて言ってゴメン……」

 教室に二人きりになった瞬間、東宮に頭を下げられる。

「いやいや! 俺大したことしてないし顔上げろって! 無事東宮の肩の荷が下りたなら良かったよ」

 また東宮のあの暴走を止める方が何倍も大変そうだったからな。俺の肩の荷も下りた気がする。

「じゃ、途中まで一緒に帰ろうぜ!」
「そうだね。あっ、ついでに帰りながら、八月に控えてる林間学校の件の相談したいんだけど……」
「――林間学校?」
「えっ、麻丘くん聞いてなかったの? 夏休みの内、一泊二日で林間学校に行くんだよ」
「一泊二日……」
「そうだよ。班決めとか、いろいろやることあるからまた忙しくなるね。体育祭も終わったばかりなのにさ」

 全然聞いてなかった。初耳だ。
 何でわざわざ夏休みにやるんだよ。夏休みは唯一変な連中に会わなくて済むのに!? 
 一泊二日だからいいけどそれでも何事もなく終わる気がしない。この学園の連中で泊まりなんて――ヤバいしかないだろ。

 気付けば、夏休みはすぐそこまで迫っていた。


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